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東京慈恵医科大学同窓会

最新情報


2019年08月25日 大学講座シリーズ
「形成外科学講座」
講座担当教授 宮脇 剛司


【沿革と現状】
 形成外科学講座は丸毛英二名誉教授によって昭和43年7月15日(1968年)に形成外科診療が開始されました。昭和50年(1975年)に診療科から講座となり、時を同じくして形成外科は19番目の基本診療科に承認されました。その後昭和55年(1980年)には附属第三病院で、昭和62年(1987年)には柏病院で形成外科診療が始まりました。昭和63年(1988年)より児島忠雄客員教授、平成9年(1997年)より栗原邦弘客員教授、平成20年(2008年)より内田満客員教授へと引き継がれ、平成27年(2015年)より宮脇剛司がバトンを受け取りました。平成30年7月15日(2018年)には講座創立50周年を迎え、現在松浦愼太郎教授、二ノ宮邦稔教授とともに医局員42名、非常勤医師10名で講座を運営しており、同窓は152名を数えます。この間に昭和51年(1976年)に丸毛英二教授が日本形成外科学会学術集会総会を開催し、その後、児島忠雄教授が平成6年(1994年)に第37回会長を、栗原邦弘教授が平成17年(2007年)に第50回会長を務められました。形成外科同窓会は、発足から長年にわたり大畠襄会長に講座を支えていただき、現在は浜弘毅会長のもとで運営されています。現在の派遣施設は、慈恵医大附属第三病院、慈恵医大附属柏病院、厚木市立病院、JCHO東京新宿メディカルセンター、富士市立中央病院、がん・感染症センター都立駒込病院、町田市民病院、埼玉慈恵病院、横浜総合病院、埼玉県立小児医療センター、聖路加国際病院、千葉西総合病院です。

【臨床】
 当講座は丸毛英二先生、児島忠雄先生、細田宏先生、大久保利弘先生が開設メンバーとなり手外科を中心に診療が拡大していきました。その後、中村純次先生を軸にマイクロサージャリーを用いた再建手術が開始され、その後乳房再建と頭頸部再建の専門分野が独立し発展してきました。さらに新橋武先生により頭蓋顎顔面外科が導入され、平成8年(1996年)には我が国初のレーザーセンター(現、皮膚レーザー治療室)を附属病院に開設し皮膚科と共同運用しています。平成13年(2001年)11月には附属病院に総合母子健康医療センターが設立され、小児脳神経外科とともに頭蓋顔面外来(現、あたまとかおのかたち外来)を開設し、現在までチーム医療として運用されています。最近では内田満先生のご尽力により先天性色素性母斑の治療も大きな診療分野の一つとなりました。また近年、耳鼻咽喉科との合同手術による鼻中隔外鼻形成術のニーズが高まり、2018年1月に形成外科と耳鼻咽喉科による鼻中隔外鼻センターを開設しました。手外科の診療においては、過去50年にわたり整形外科と形成外科が独立して診療を行ってきましたが、近年両科とリハビリテーション科によるJikei Hand Forumやカンファレンスを継続する中でチーム医療の機運が高まり、令和元年(2019年)4月に形成外科と整形外科の合同診療体制を基本とした手外科センターを開設しました。美容外科診療は、現状ではレーザー治療、多汗症治療と、他施設での術後合併症の対応などに限定していますが、全国大学病院の多くが美容外科を標榜し、さらに慈恵医大の地政学的背景からも社会的ニーズは高く、いずれは慈恵医大にとってふさわしい美容医療を提供できればと考えています。
 附属病院の形成外科手術件数は毎年増加傾向にあり、平成20年(2008年)の770件(うち入院手術448件)から平成30年(2018年)には1456件(うち入院手術1148件)に増加しました。

【研究】
手外科分野
 治療の困難な先天異常症例では骨長の不足が課題の一つですが、仮骨延長術を導入することで克服してきました。近年はより小型の骨延長器を開発導入し末節骨など極めて小さな骨の延長を可能とし、軟部組織の瘢痕拘縮に対して骨格に外力をかけて拘縮を解除する新しい治療法を開発し良好な成績を得ています。今後は過去に蓄積した膨大な先天異常症例をもとに、最新のAI技術を取り入れた新しい診断手法を構築していく予定です。

頭蓋顎顔面外科
 頭蓋骨欠損モデルの骨再生の研究を経て、現在は外鼻に関する研究を中心に進めています。鼻閉の治療は耳鼻咽喉科の専門分野ですが、形成外科的な手術手技を補助的に用いることで鼻腔通気機能をさらに改善できる症例が存在します。特に鼻中隔軟骨の前弯や上弯、鼻弁狭窄、高度外傷や先天異常による外鼻変形を原因とする鼻閉の治療に焦点を絞り耳鼻咽喉科と合同手術を重ねる中で、新しい術式を開発・応用し臨床研究として評価をしています。また、鼻弁の客観的な評価法は世界的に存在しませんが、強制吸気時と安静時の鼻腔容積をCT画像解析によって比較し鼻弁狭窄症例の診断が可能となりました。さらに体表の三次元写真の画像解析から強制吸気時と安静時の外鼻容積の変化量がCTの鼻腔容積変化量と相関することを証明し、三次元写真による被曝のない客観的な鼻弁機能の評価法を確立しました。

再建外科
 頭頸部再建は形成外科の中では比較的新しい分野ですが、本学耳鼻咽喉科の頭頸部癌の豊富な症例により、全国大学病院の中で最も多くの頭頸部再建手術数を誇っています。今まで解析されることのなかった頭頸部再建手術患者の口腔嚥下機能、音声機能の評価を行い、当科の術後機能回復の優位性と課題を報告してきました。また咽頭喉頭食道全摘術後の再建には遊離空腸移植が主流でしたが、一度合併症が生じた際は致命的である本術式の問題点を指摘し、大腿部の皮膚をロールとして再建する術式を導入し、その安全性を報告してきました。顔面神経麻痺は保存療法が基本ですが、回復不良な症例や腫瘍切除に伴う神経切除例では神経移植、遊離筋肉移植などの外科的介入を行っています。乳がん治療においては腫瘍切除術後の乳房再建手術は世界的に広く認知され、当科においても腹直筋や広背筋などの自家組織移植術やシリコン乳房インプラントによる再建手術、乳輪乳頭形成術を行い、安定した成績をおさめてきました(なお国内で使用可能なシリコンインプラントは本年7月末に製品のリコールが決定したため現在インプラントによる乳房再建手術は中止しています)。

レーザー治療
 将来の悪性化が危惧される先天性巨大色素性母斑は完全切除が望まれますが、実際には全てを取りきれない症例も多く、皮膚の色調改善を目指したQOL改善に繋がる治療法が模索されています。当科ではピコレーザーによる新しい治療や、キュレッテージ(表皮剥削術)直後にレーザー照射を行う新しい試みを行い、治療成果を報告してきました。
 このほかCTや三次元写真の画像解析を広く行なっており、体表面への映像投影による皮弁の血流評価や骨折の体表面への投影、投影機による顔面水準器の試作、写真解析による顔面神経麻痺の客観的評価法の開発を進めています。また昨年より顔面骨のbiomechanicsについて龍谷大学との共同研究を開始しました。

【教育(学生、レジデント)】
 運動器の機能解剖に加え、年6コマの形成外科学講義とクリニカルクラークシップを含む学生実習を行なっています。実習中は学生が自ら手術手技を理解し、外科の基本である縫合法を修得します。また本学の国際交流事業の中で形成外科には海外から毎年5〜7名の交換留学生が実習に参加しています。これは国際交流に留まらず、現役医局員の英語に触れる機会を増やす点で大変有効なシステムです。平成29年(2017年)のスイスからの留学生は大学卒業後、日本の形成外科医師になることを夢見て大学院形成外科学に入学し、現在は画像解析による顔面神経麻痺の研究と並行して日本語検定試験と医師国家試験の準備を進めています。レジデントには大学病院での幅広い研修だけでなく、より専門性の高い小児病院や癌専門病院での研修が選択できるように施設連携を行なっています。また積極的に国内外への留学を推奨し専門性の高い分野の診療技術の向上と学術交流を行なっています。

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