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東京慈恵医科大学同窓会

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2013年06月25日 論壇 整形外科医が支えるスーパーヒューマンズ!(昭50)別府諸兄

 スーパーヒューマンズという言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、昨年のロンドンパラリンピックで「MEET THE SUPER HUMANS―スーパーヒューマンズに会いにいこうー」という、身体の障害を乗り越え、又は闘病しつつ競技に挑む選手達を讃え応援するキャッチコピーにあったものだ。そして、その通りに今までにない多くの観客と熱狂で、ロンドンパラリンピックは大成功であった。私はこのスーパーヒューマンズの一人国枝慎吾選手と、平成二十五年の第二十五回日本肘関節学会会長招宴のイベントとして、対談形式で講演を行った。題して、「国枝慎吾ロンドンパラリンピック金メダルへの道」である。それは、今回最大の試練であった肘の手術を乗り越え、パラリンピックで金メダルをとるまでの日々を、彼の最新のプロモーションDVDを織り込みながら行われた。。
 しかし、皆さんは国枝慎吾選手をご存じだろうか。大きな声では言えないが、私は慈大医学部テニス学科専攻というくらいに学生時代はテニスに没頭した。そして実は国枝選手がアマチュア時代から、素晴らしい選手だと注目していた。彼は今、日本初のプロ車いすテニスプレーヤーである。現在まで、シングルス優勝150勝、アテネパラリンピックでダブルス金メダル、北京からロンドンパラリンピックシングルス連続金メダルと輝かしい戦歴を持つ。また、世界のテニス四大大会の覇者ロジャー・フェデラーをして、もっとも尊敬するテニスプレヤーと言わしめている。
 今回彼はロンドンパラリンピックで金メダルを取るため、使い過ぎで障害を起こした難治性テニス肘の手術と後療法を、私と聖マリアンナ医大整形外科上肢班、OT(作業療法士)に任せてくれた。そして、その後は、国立スポーツ科学センターと国枝君のホームグランドである吉田記念テニス研修センターの有能なコーチチームのもと、緻密かつ過酷なトレーニングを敢行し、世界の頂点、金メダルを獲得した。勝利の瞬間、彼は大空に向かって吠えた。しかし、授賞式では、応援してくれた人達への穏やかな感謝の笑みで溢れていた。彼は、まさしくロンドンへの厳しい道を諦めずに、真摯に取り組んだスーパーヒューマンズの一人であった。
 現在日本は高齢社会の真っ只中にあり、しかも人類未到達の超高齢化社会を目前にしている。これに対して、私達整形外科医は、運動器の健康寿命延伸餮を目指し「ロコモティブシンドローム」という新しい概念を、国民に浸透させる努力を行っている。日々の運動器の故障、障害、疾患の克服だけでなく、予防の重要性を訴えている。キーポイントとなるのは、元気で自立したハツラツと日々を送れるお年寄りを作ることである。そのためには、骨粗鬆症、人工関節、運動器の再生といった研究が推し進められねばならない。と同時に、国民一人一人が、若い頃から自分の身体に責任をもち、社会の一員として自立した生き方を真摯に模索し希求する姿勢が必要である。そして、それに向かって諦めずに生きていく人々も、また新たなスーパーヒューマンズと言えるのではないだろうか。このスーパーヒューマンズづくりに医師として携われる幸いを感謝したい。またこれは、高木兼寛先生の「病気を診ずして病人を診よ」に通じると思うのである。
(聖マリアンナ医科大学整形外科学講座代表教授・(公財)日本股関節研究振興財団理事長)
餮公益財団法人 日本股関節研究振興財団 運動器健康寿命延伸事業
URL http://www.kokansetu.or.jp/

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