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東京慈恵医科大学同窓会

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2013年07月25日 論壇 「多死時代」に対応する病院(昭58)高見澤 重隆

 現在、国内年間死亡者数は約120万人、そのうち8割強が医療機関で看取られている。2030年には死亡者数が165万人に上ると推計され、介護施設の増床や在宅医療の拡充を図ったとしても約47万人の「死に場所」が確保されないと見積もられている。国はこの「死に場所」を在宅医療や介護施設に振り分けようと考えているが、現状の医療制度の中で在宅医療を積極的に進めようと考えている実地医家は少ない。もし自分が往診できないときに代わって診てくれる、またどのような状態の患者さんでも必ず受け入れてくれる後方支援病院があったなら、多くの実地医家が在宅医療を行うことであろう。
 そこで「多死時代」を見据えた、地域支援型高齢者対応病院(以下、センター病院と略す)を提案する。以前この提案を某メールマガジンに寄稿したところ、地方の中核病院の先生から「ただでさえ医師不足なのに開業医の患者さんまで引き受けられない」とお叱りの言葉を頂いたことがあるが、あくまで私の提案は首都圏などある程度医療機関が揃っている地域を対象とした考えである。
 まず行政、地域医師会・病院協会、介護施設との緊密な連携が前提となる。行政主導で練られた「高齢者地域医療・福祉計画」の下、登録医療機関は共通電子カルテに患者を登録し、センター病院はその患者が送られてきたときに主治医のカルテを見ることが出来るシステムを作る。基本的に登録患者は緩和ケアセンターまたは総合診療科が窓口となりすべて受け入れる。対症治療後、入院が長引くときには紹介医のもとに戻るか、もし紹介医が受け入れられないときには後方連携病院、看取りの出来る介護施設、または在宅専門診療所に転医していただく。緩和ケアセンターは非癌患者さんの看取りも行い、ときには在宅訪問診療もこなす。看取りの現場には地域のボランティアや宗教家の参加も積極的に募りたい。ボランティアとして入った高校生や大学生にとって教育の現場で「死」に接することは、計り知れない経験となることであろう。医療・看護・介護教育の実習の場としても活用できる。また終末期を迎える人にとって宗教家による「道先案内」があればどれほど安心して旅立てることか。米国のホスピスでは必ずチャプレン(臨床宗教師)が立ち会う。
 もうすぐそこに「多死時代」が迫っている。今からその対策をしっかり練らねば間に合わない。誰かが先陣を切って動かなければ、この国は動いてくれない。(同窓会理事)

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