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東京慈恵医科大学同窓会

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2013年08月25日 論壇 次世代のがん医療を担う医師教育プログラム(昭52)山田 尚




 昨年、お世話になった先生から1冊の本を頂いた。本のタイトルは「全身がん政治家」、著者は与謝野馨氏であった。半生に及ぶがんとの闘いを、氏の政治家としての使命感、希望、そして医師への信頼感と闘病について淡々と語ったものであった。
 現代日本では、年間75万人が新たにがんに罹患し、約35万人が死亡する。これは紛れのない事実である。本学附属病院および附属柏病院は地域がん診療連携拠点病院である。成人の様々ながんや、小児がん、更に造血幹細胞移植を用いた治療などが各科の専門医によって精力的に行われている。しかし、がん診療は一人の医師によって完結するものではない。それは病院・大学の総合力が問われる分野なのである。画像診断から病理診断、外科治療、放射線治療、化学療法、緩和医療、そして患者や家族を支えるスタッフなど、1人の患者の治療に携わる医療人はかなりの数に上る。また、がん医療の明日を切り開く基礎研究・臨床研究の推進は本学に課せられた社会的な使命と言える。
 がん診療には思いがけない副作用や病態に遭遇する事が不可避な側面がある。最近では生活習慣病など合併症をもたない患者はむしろ稀である。特定機能病院は様々な病態に対応する能力の高さから、がんの実地臨床に最適である。この様な裾野の広いがん診療に取り組むのには、実践を指揮する医師の育成は必須である。従来、この点は各科・個人の努力に委ねられ、システマティックな教育プログラムは存在していなかった。昨年、栗原敏前学長および森山寛前病院長の慧眼で本学大学院に専門医療人養成のための「がん治療医療人養成コース」が新設され、慈恵医大勤務中の医師が社会人として大学院博士課程に進学する道が開かれた。落合和徳教授を中心としたこのプログラムには最新の分子腫瘍学から治療学、更に、緩和医療や患者・家族の心理までを幅広く学ぶことのできるカリキュラムが整えられている。さらに特筆すべきは昭和大学、星薬科大学そして上智大学と連携し、各大学の特色を生かしたがん治療医療人の教育へと広がりを見せている点である。
 がんに関連した科学的知見は日々更新されている。病気の理解には今まで以上の努力が求められ、1人の病人を診るためには多くの医療人との協力や個々の研鑽が必要である。これからの日本のがん医療を実地において支える医療人教育の第一歩として大学院博士課程がん治療医療人養成コースに期待するところは大きく、是非とも成功させなければならないと考える。
(総合医科学研究センターDNA医学研究所分子遺伝学研究部教授)

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