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東京慈恵医科大学同窓会

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2013年09月25日 論壇 慈恵の歴史を形あるものに―慈恵医学博物館構想―
(昭53)佐藤俊介


 創立130有余年の歴史をもつ本学においては、現在、西新橋キャンパス再整備計画が立ち上げられ、新外来棟建設を含む様々な事項に対し綿密な検討がなされている。慈恵新時代の幕開けに向けて大変喜ばしいことであるが、一方で、このことは慈恵の歴史を刻んできた建物や設備等をどう処理するかという重い課題をつきつけられているということでもある。
 最終判断は勿論大学が下すことであるが、私はこの機会に現在ある史料室を発展拡充した形で、『慈恵医学博物館』を創設すべきと考える。『慈恵の医学』と称される程全国でも有数の歴史と伝統を有する本学であるが、それ以上に、明治の初期ドイツ医学が主流となる中において英国医学を導入、日本最初の慈善病院の設立、本邦初の看護学校の創立、そして脚気の研究等、学祖の医学界における先見性・革新性は我国の医学史上大変価値のあるものであり本学の誇りでもある。このような学祖の足跡や業績、さらには大学の歩み、本学で行われてきた診療・教育・研究に関する諸々の医学史料や設備・器械等には歴史的価値のある貴重なものが多く、出来る限り保存し展示することで本学の存在を学内外に発信することが肝要と考えるからである。
 先人たちの足跡・業績を知る貴重な医学史料や設備・器械を保存し編集するには、大変な時間と労力がかかるうえに、時機を逃すとその作業自体が大変困難になる。また平成年度の卒業生が同窓の半数を占めようかという今、今後も進む世代交代は、古き慈恵を知る人が少なくなり慈恵に関する貴重な史料や記録、そして記憶が失われていくことを意味する。さらには現存する由緒ある建物の処理の際には、受け皿がないと貴重な史料や設備・器械なども処分せざるを得ない可能性が高くなる。
 かつて『本郷の学理、芝の臨床』と評され、ともに長い歴史をもつ東京大学には、平成23年『健康と医学の博物館』が開設されている。慈恵には慈恵の道があるという向きもあろうが、己の原点を知り、慈恵人としての矜持を忘れないためにも、慈恵の歴史を形あるものにして遺してゆく努力が今必要なのではないだろうか。これからの慈恵を担う人達にとって、慈恵の歴史を知ることは、慈恵の未来の姿を紡ぐことに他ならないと考えるからである。(同窓会理事)

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