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東京慈恵医科大学同窓会

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2014年03月25日 論壇 チーム医療における看護師の役割
(看平10)朝倉 真奈美


 看護学科を卒業後16年目になり、附属病院内科、精神神経科病棟の経験を重ね、現在は脳神経外科・神経内科・形成外科病棟で師長をしている。これらの経験をもとに脳卒中センター設置準備委員会委員として取り組む中で、チーム医療における看護師の役割について述べたい。
 脳卒中患者が病院に何を求めているのか?その答えは「苦痛をとってほしい」「不安を和らげてほしい」「元の状態に戻してほしい」の三つと考える。これらの求めを叶える、あるいはそれに近づけるためには、医師(神経内科、脳神経外科、リハビリテーション科等)、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士やソーシャルワーカーらプロフェッショナル集団の連携と協働が重要である。
 脳卒中患者には意識障害や高次脳機能障害により自分の意思を言葉で伝達できない方もいる。看護師は患者が訴えられずとも、その苦痛や不安を感じ取り先手を打てる存在となり、調整役を発揮し最高のチームパフォーマンスを提供したい。
 そこで、現在自部署で取り組んでいる意識障害の患者に対するケアの一例を紹介する。患者は数週間前までは自力で口から食事をとっていた人である。意識障害が悪化し、嚥下機能が低下したため経管栄養となったが注入直後から下痢症状となった。嚥下機能が低下し経口摂取困難であっても、指やスワブで口腔を刺激し、好きだった食べ物の情報をとり、嗅覚や味覚による刺激を栄養剤注入前に与える。例えば、甘いものが好きだった人にはバニラエッセンスを嗅いでもらう。脳は長年の好物である物を記憶しており、これらの刺激により「食べる」ことの準備を消化管にさせることで下痢がおさまり、栄養状態が改善した。この事例では、NST(栄養サポートチーム)や歯科衛生士との連携も成果につながったと考える。
 このようなチーム医療を行うには、職員が互いの専門性を理解し信頼し合い、良好なコミュニケーションが必要である。看護師には今後予測される疾患の経過、地域へ戻った時の生活がどうなるか、患者の持てる力はどうか等を常に査定する能力に加え、その情報を医療チームで共有するために調整する能力を求められる。
 脳は一部が障害され神経細胞が死滅したとしても、残りの脳が失われた機能を取り戻そうとする「脳の可塑性」がある。神経細胞のシナプス数を増やせるように、看護師は声をかけ体をさすり、シャワーによる温熱刺激を与え脳の神経回路を活発にさせることを試み、回復する力、患者自身の持てる力を信じ決してあきらめない。患者を元気であったときに少しでも近づけるために、「意識障害の患者」として捉えるのではなく「一人の生活者」としてみつめ、目標を繰り返し話し合い個別に設定し、多職種が連携、補完できるチームマネジメントを遂行し、患者・家族とともに回復を喜べることが脳卒中に関わる看護師の専門性であり楽しみでもある。(脳神経外科・神経内科・形成外科病棟(16H)師長)

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