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東京慈恵医科大学同窓会

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2014年04月25日 入学式告辞
東京慈恵会医科大学 学長 松藤 千弥


 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。教職員一同を代表して、皆さんを心から歓迎いたします。また、新入生をこれまで育み支えて来られたご家族の方々には、心からお祝い申しあげます。
 本日、東京慈恵会医科大学は171名の新しい仲間を迎えました。
 皆さんは、私たちにとって、まさに「宝物」であります。
 本学は130年以上も前に、高木兼寛先生によって明確な目的をもって創設されました。その目的とは「病に苦しむひとを救う」ということです。建学の精神として「病気を診ずして病人を診よ」とも表現されます。この目的達成のため、建学当初から医学校、看護婦教育所、病院がおかれました。以来、慈恵医大は、目の前の患者さんに対する全人的医療、今は治すことができない患者さんを何とか救うための研究、そしてこれらの全人的医学・医療を共に実践する仲間の育成のための教育を、一体として継続してきたのです。
 130年の時を経て、本学の建学の精神は古びるどころか、いっそう輝きを増しています。未来にわたって、その価値が失われることはないでしょう。私たちは皆さんに、この精神を伝えます。そして、いずれは「病に苦しむひとを救う」ための教育、研究、診療を、皆さんに託すことになるのです。皆さんが、私たちにとっていかに大切な宝物であるか、おわかりいただけると思います。
 それでは、皆さんにとって、慈恵とは何でしょうか。
 建学の精神である「病気を診ずして病人を診よ」は、本学に深く浸透し、職種をこえて全ての教職員、学生、同窓に共有されています。この一体感こそが本学の何よりの力です。価値観を同じくする同志ですから、現場では互いによく恊働し、先輩を手本とし、後輩を大切に育てます。医学・看護学の真髄は、人から人へと直接伝える以外の方法では、なかなか伝えることはできません。医療者をめざす皆さんにとって、これほどすばらしい学習環境はないといえるでしょう。
 皆さん、慈恵医大が目指していることをよく理解してください。そして誇りをもって、共に目的に向かって進もうではありませんか。
 次に、これまでお話ししたことを踏まえて、皆さんが大学生活を始めるにあたって大切なことを三つあげることにします。
 第一に、医学、看護学をめざす志を高く保ってください。「病に苦しむひとを救うために」学習する決意といってもいいでしょう。現在の皆さんの熱い気持ちは、ただいまの代表者の宣誓によく表れています。しかし、実際に皆さんが病に苦しむひとを救うことができるのは何年か先のことです。それまで皆さんは、自分自身を高めていくのです。それは楽しいことですが、ときに苦しいこともあるでしょう。志を高く保ち続けるのは容易ではありません。さまざまな機会をとらえ、あるいは自ら機会を作って、繰り返し心に灯を点し、今の皆さんの気持ちを維持する努力をすることが大切です。
 二つ目に、大学では、学習は自らの責任で自律的に行うものであることを肝に銘じ、学習方法を切り替えてください。皆さんの多くは、これまで大学入学を目標に勉強してきたことでしょう。それに比べて、大学では、何を、どのように学ぶかということが自分自身に大きく委ねられます。慈恵医大は伝統的に自主性を尊重した教育を行っています。自ら学習し続けられない人には、病人を救い続けることなどできないからです。また、これから学ぶ知識は、病に苦しむひとを救うことに生かされなければ意味がありません。少し時間がかかってもいいから、体系的、本質的に理解する必要があります。大学受験のときのような、試験で効率よく点数をとるような勉強の仕方は捨て去った方がいいでしょう。
 第三に、医療者にとって本当に大切なのは、知識や技術よりも、むしろ心と態度、そして人間性であるということを知ってください。ここにいる皆さんは、病めるひとの心に寄り添う優しさと、医療を任される者としての正義感を持っていると思います。そこに皆さんは、医療者として必要なものを付け加えていくことになります。例えば、患者さんの安全や人権に配慮し、チーム医療の中で周囲の医療者と十分なコミュニケーションをとり、自分自身を常に高めていく姿勢を保つ。これらは「医療者のあるべき姿」ともいえます。これらを育む様々な授業が用意されていますから、大切に学んでください。さらに、皆さんが実習で患者さんの前に出ると、病に苦しみ、死にゆくひとの心を受け止める、分厚く強靱な人間性が大切であることを痛感するでしょう。授業で学べることは限られています。仲間と集い、体を鍛え、若者として幅広い経験を積んでください。部活動や課外活動に参加して、人間性や協調性を育み、人間の輪を広げることもおおいに推奨します。多くの先輩が、学業と部活動を立派に両立させています。
 皆さんの入学にあたり、三つの大切なこと、志を高く維持すること、学習方法を大学生のものに切り替えること、心と態度、人間性を涵養することをお話ししました。
 私たちの宝物である皆さんが、健康で明るく有意義な学生生活を謳歌し、その結果、私たちと目的を共有する同志として大きく育つことを願っています。以上をもって入学式の告辞といたします。

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