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東京慈恵医科大学同窓会

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2014年05月25日 論壇 遺伝子医療の充実を
(昭56)大橋 十也


 有名女優のアンジェリーナ・ジョリーさんがBRCA1遺伝子に乳がんと卵巣がんの発症リスクが高まる変異を持っていたために、予防的乳房切除術を受けたこと、妊婦さんから採血するだけで児の染色体異常がわかる無侵襲的出生前遺伝学的検査が開始されたことなど、近年一般社会でも遺伝子医療が話題を呼んでいる。また、米国の遺伝子検査会社二十三アンドミーに代表される企業が、健康関連遺伝子を解析して疾患の発症リスクを予告するというような不確実な遺伝子検査サービスが巷であふれている。
 1991年に始まったヒトゲノム計画は、人の全ゲノム30億塩基対を決定するのに13年30億ドルの時間と費用をかけて行われたが、次世代シークエンサーの登場により安価かつ短期間で解析が終了する時代が始まっている。以前は遺伝子異常が疑われると、診察と様々な検査をして考えられる疾患を絞り、幾つかの候補遺伝子を調べて診断していたが、現在では、全遺伝子検査をした方が早い時代になっており、事実、多くの原因不明であった疾患の原因遺伝子が、その手法で続々と明らかになっている。この様な技術の進歩は、我々の想像をはるかに超えており、それを利用する医療サイドの体制が追い付いてないのが実情である。しかしながら、これらの技術は既に臨床の場に降りてきている。これらの技術を医療サービスに生かすには高い知識と倫理性、そしてそれを可能にする病院、大学としてのシステムの構築が必要である。
 本学では松藤千弥学長のリーダーシップにより研究の推進が図られ、それを倫理面でバックアップする倫理委員会の拡充も進んでいる。一方、診療面ではまだ独立した遺伝子診療部はなく、専任の遺伝カウンセラーもいない。また教育に関しても遺伝学を集中して教えることもされていない。遺伝子医療というと小児科、産科だけのものと思われているかもしれないが、実際は癌など成人の疾患のニーズの方が高く、遺伝医学は今後避けて通れない分野であり、その需要は益々増えてゆく事が予測される。他学では遺伝子医療を特化して行う遺伝子診療部を持つところは多くなってきている昨今、本学でも遺伝子医療とその教育の充実は急務である。
 (総合医科学研究センター・センター長)

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