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東京慈恵医科大学同窓会

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2014年06月25日 論壇 「反抗期を知らない学生達」
(昭55)木村 直史


 ヒトほど自立するのに長い時間を要する動物はいない。生後20年近く経っても自立できないのは、他の動物に比べると驚異的なことである。それはヒトが社会的動物であり、社会の中で自立して生きていくには、長い学習期間を必要とするからである。社会が高度化するほど、専門職になるほど、学ぶ期間は長くなる。医師として自立して生きていくためには、生涯、自ら学び続ける必要がある。
 近年、入学してくる学生は極めて素直な学生が多い。中学、高校時代に反抗期らしい反抗期を経ないできた学生が増加している。素直で親や教師の言われた通りに勉強していなければ、厳しい受験競争に打ち勝って医学部に入学することはできないのかもしれない。現役で入学する学生のみならず浪人経験者でもみられるので、実際に「精神的未成熟期」が延びているのかもしれない。生物学では、幼体の姿のまま性成熟する現象をネオテニー(幼形成熟)という。ヒトの場合、見かけは成熟しているが社会的に自立できないという点で、「逆ネオテニー」といえるかもしれない。
 反抗期は親からの自立の第一歩である。子は最初に最も親密な母親からの自立を試み、これを乗り越えると父親からの自立を目指す。こうした時期を経ないと自我を確立し、自立していくことができない。手厚い親の庇護の下に中学、高校時代を過ごし、反抗期を経なかった学生は、自立的な学びを求められる大学に入学後、壁にぶつかることになる。学生時代に「自立」できればよいが、精神的に自立できないまま社会に出てしまうと、社会に適応困難となってしまう。
 医学教育研究室では、2年次の医学総論の授業において、数百の質問項目により学生の性格傾向を調べている。回答後、瞬時にエクセルのレーダーチャートで、その結果を自分自身が知ることができる。これは自己の性格傾向と、その陥りやすい問題点を認識してもらうためである。例年、平均して高いスコアが得られるのは、「依存性」、「自己愛性」、「心配性」、「強迫性」などの性格傾向であるが、「依存性」のスコアは、年々高くなる傾向がある。「依存性」の傾向は、常に他者にフィードバックを求める行動につながり成績面では有利に働くが、反面、自立できていないことを反映しているとも考えられる。これは反抗期を経ていない学生が増加していることと関連があるのかもしれない。
 教育の本質は、社会的に自立した人間を育てることである。本学で既に多く採用されている学外体験実習や、平成27年度から始まる新しい臨床実習カリキュラムは、社会的に自立した人間を育てるためにも重要である。
 (医学教育研究室/薬理学講座・教授)

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