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東京慈恵医科大学同窓会

最新情報


2014年07月25日 第35回慈恵医大夏季セミナー
8月2日(土)PM4:00〜6:30 大学1号館3階講堂
テーマ「見逃せない!最新の薬物治療アップデート」


司会のことば
眼科 常岡  寛
 新しい技術による病態の解明が飛躍的な進歩をするに伴って、新しい概念による新薬が開発され、その臨床応用によって従来の薬物療法が大きく変化しつつある。今回のセミナーでは特に最近になって治療法が急速に進歩した分野に関して、それぞれの専門家に集まっていただき、最新の進歩と治療上の注意点をご紹介していただくこととなった。
 テーマとして、発展著しいウイルス肝炎治療法、炎症性腸疾患に対する抗体製剤、糖尿病の新しい経口血糖降下薬、関節リウマチに対する生物学的製剤、慢性閉塞性肺疾患に対する吸入治療薬、さらに心房細動心疾患に対する抗凝固療法が取り上げられている。それぞれの疾患に関する新薬を中心とした最新の薬物治療を、その使用開始時期や投与法、投与上の注意などについて解説していただけるものと思う。
 いずれの疾患も、内科に限らず、日常的に外来で遭遇する機会が多い疾患である。今回のセミナーが、各科の先生の日々の診療に役立つ情報を提供できることを期待する。

ウイルス性肝炎
消化器・肝臓内科 石川 智久
 ウイルス性肝炎に対する薬物治療は進歩し、ウイルス駆除や増殖制御が可能となった。治療中核となるインターフェロン(IFN)は、高分子化合物との合剤化で効果が飛躍的に向上した。C型肝炎(CHC)は従来のIFNとリバビリンに加え、Direct acting antivirals(DAA)併用により初回治療例では90%以上ウイルス排除が出来るようになった。今年末には、IFNを使用しないDAAの経口剤併用のみで高率のHCV駆除が現実となる。肝細胞癌による死亡者数も近年減少に転じ、CHCの『ウイルス根治』が可能な時代となった。
 B型肝炎は急性肝炎が都市部中心に未だ散発するものの、母子感染が主体の慢性肝炎(CHB)は出生時ワクチンにより激減した。CHBでは核酸アナログ製剤(NA)でHBV増殖が確実に制御され、ほぼ全例で肝炎鎮静化が得られる。しかし、DNAウイルスであるHBVは宿主DNAへ組み込まれ生涯に及ぶNA服薬が必須となり、さらにNAに対する耐性株出現による多剤併用も課題である。今後、NAとIFN併用や新たなワクチン開発でのdrug freeが望まれている。

炎症性腸疾患の最新治療と展望
消化器・肝臓内科 猿田 雅之
 潰瘍性大腸炎、クローン病に代表される炎症性腸疾患は、患者数が平成23年に各13万人、3万4千人を超え、現在もさらに増加している。両疾患は若年で発症し、腹痛、血便、下痢、体重減少などを認めるため、生活の質を著しく低下させている。両疾患は完治できないため、かつては「臨床症状を抑え生活の質を改善させること」が治療目標で、基準薬の5―アミノサリチル酸製剤や、副腎皮質ステロイドを用いることが多く、漫然とした使用から副作用に悩むことも多かった。
 近年、既存治療で十分な効果が得られない場合、炎症性サイトカインTNF―αに対する抗体製剤を使用すると、高い寛解導入作用を示すことが報告され、本邦でも保険承認された。抗TNF―α抗体製剤は、腸管粘膜内の慢性炎症の首座を制御することから、腸管粘膜の完全寛解を実現し、高い寛解維持効果も示した。現在は、同薬剤の登場で病気自体の自然史が変わり、治療目標も「腸管粘膜の完全寛解」へと変化している。

糖尿病の経口血糖降下薬の今
糖尿病・代謝・内分泌内科 西村 理明
 1990年代に入るまで、糖尿病における薬物療法といえば、すなわちSU薬による治療と言っても過言ではなかった。ビグアナイド薬の使用も可能であったが、フェンフォルミンによる乳酸アシドーシスのイメージがつきまとい、あまり処方されなかった。
 この糖尿病の薬物治療の流れが劇的に変わったのは、1990年代以降である。新しい薬剤としてαグルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬(最初に発売されたトログリタゾンは肝障害で発売中止)、速効形インスリン分泌促進薬が登場、さらにビグアナイド薬のメトフォルミンの有用性が実証されその使用も普及した。21世紀に入ると、インクレチンの研究が進み、DPP―4阻害薬が開発され、その使用が急速に普及した。さらに、腎臓における糖の再吸収を抑制して一日に100gもの糖の排泄を促進する薬剤も登場してきた。
 これらの薬物毎の特性を理解し、患者さん個々人の病態に応じて、薬剤を的確に組み合わせることが求められる時代に突入した。

関節リウマチにおける最新の薬物療法
リウマチ・膠原病内科 黒坂 大太郎
 関節リウマチの治療において生物学的製剤は無視をすることのできない状況にある。しかし、副作用などの懸念から生物学的製剤の使用を躊躇している実地医家の先生方も多いのではないかと思う。生物学的製剤の使用経験が増えるにつれて色々なことが分かってきた。以下の点に注意をすればクリニックでも生物学的製剤を比較的安全に使うことができる。1.高齢者、肺障害の合併症や既往のある方、コントロール不良の糖尿病のある方は生物学的製剤の副作用が起きやすく、このような患者は専門機関に任せて、副作用が起きにくいと考えられる患者を中心におこなう。2.導入前に胸部CT検査などを施行し、呼吸器系の状態をチェックする。また潜在感染症の検査を行う。3.導入後は、血液検査などをこまめに行い早期に合併症を発見する。このような治療をするには病診連携がポイントであろう。そこで今回は病診連携の可能性も含めクリニックでの生物学的製剤の導入を提案したい。

COPD・喘息に対する薬物療法
呼吸器内科 桑野 和善
 喘息やCOPDのキードラッグは各種吸入薬である。気管支喘息は、気道の慢性炎症、気道過敏性の亢進、気流閉塞の可逆性を特徴とする。喘息治療の目標は、現在の症状だけでなく、将来のリモデリングを防ぐことである。気道炎症を抑制する吸入ステロイド(ICS)の普及とともに喘息死は確実に減少した。代表的な吸入薬剤はICS、LABA(長時間作用性β2刺激薬)、ICS+LABAの合剤、そしてSABA(短時間作用性β2刺激薬)である。気道過敏性・気道炎症は長期間の治療継続が必要である。COPDとは、タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することで生じた肺の炎症性疾患である。COPDの治療目標は、症状及びQOLの改善、身体活動性の向上及び維持、増悪の予防、疾患の進行抑制、全身併存症管理である。安定期COPDの管理は、禁煙、ワクチンなど非薬物療法とLAMA(長時間作用性抗コリン薬)やLABA、SABAなど吸入治療薬である。長期に継続して吸入することで最大限のメリットが得られる。

心房細動に対する抗凝固療法、いつやるか?
循環器内科 川井  真
 長い間、循環器領域における抗凝固療法ではワルファリンがもちいられてきたが、新しい概念の薬剤として非弁膜症性心房細動に対してのみではあるが、直接トロンビン阻害薬や第Xa因子(FXa)阻害薬が使用可能となっている。現在、わが国では非弁膜症性心房細動に対する治療薬として、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンの三剤が使用可能であり、次いでエドキサバンが、第三相臨床試験を踏まえて新薬承認申請の結果を待っている。新規経口抗凝固薬は、ワルファリンの持つ問題点を解決すべく開発された薬剤であるが、実臨床での使用開始の間もない時期に、厚生労働省より安全性速報(いわゆる、ブルーレター)が発令され、重篤な出血に関して注意喚起がなされた。これらのことからも、新規経口抗凝固薬に関しては、まだ使用経験が少なく、使いこなすには多くの経験の蓄積が必要であるが、現状での新規経口抗凝固薬の安全使用を含め概要を解説したい。

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