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東京慈恵医科大学同窓会

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2014年09月25日 論壇
Choosing Wisely(無駄な医療費撲滅運動)
(昭54) 江本 秀斗


 電子レセプト請求の猶予期限まで半年となった現在、医科では97%が既に電子請求され、その7割がオンライン請求である。電子レセプトの普及に伴い診療報酬審査は、高く山積みされた紙レセプトの「めくり」から二画面を前にした「クリック」へと大きく変わり、データの抽出や蓄積が容易となったため縦覧・突合審査が導入された。
 平成25年に設置された規制改革会議の分科会である健康・医療ワーキンググループでは、診療報酬審査に関して更なる検討がなされた。主旨は保険者による直接審査の推進とITの活用による審査機能強化で、医療費の削減を目論んでいる。
 現在保険者は一次審査を経たレセプトを独自に再点検し、疑義が生じたものを再審査として審査機関に返送している。一方、保険者が一次審査を行い、疑義を生じたレセプトのみを審査機関に送れば無駄がなく手数料も削減できるという意見がある。しかし、高度に専門化された診療内容を理解できる人材が保険者側にそれほどいるとは思えない。従って、ITに頼った画一的な審査にならざるを得ない。個々の患者は、年齢、性別、既往歴、合併症及び疾病の重症度により極めて個別性が高く、実施される医療も患者の状況に応じて提供される。さらに、医学の進歩や専門分野の高度化によって、診療行為は日々複雑多岐なものとなっている。診療における医師の裁量権を守るためにも、審査委員にはより深い専門的医学知識と豊富な経験が求められる。
 8月19日付読売新聞によると、政府は来年度から電子化された膨大なレセプトデータを活用した医療費抑制策に乗り出す。一人当たりの医療費には地域差があることに着目し、データの分析で医療費の無駄をあぶり出し、都道府県ごとに抑制の目標値を設定する方針である。具体的には、病気の種類に応じて治療傾向を比較し、投薬や通院回数が多すぎる地域には削減を促す。病院のベッド数が多すぎる地域は入院日数が長くなる傾向にあり、この因果関係が明らかになればベッド数の削減を求める。10年後までには医療・介護費を計5兆円抑制する方針を掲げているが、間違えれば国民皆保険の崩壊につながる。
 米国は一人あたりの医療支出が世界で最も高く、ニューヨークタイムズ誌は「米国は慢性的な過剰医療の国である」と述べており、医療費の30%は患者に明確な利益をもたらさない不要な医療であると推定している。
 「Choosing Wisely」は米国内科専門医認定機構が中心となり、2011年から展開された運動である。医師と患者に対して過剰医療についての情報を提供することで、医師と患者との関係を密にし、患者中心医療の推進を目的としている。各学会が過剰医療を行わないための推奨事項を5項目ずつ挙げ、米国医師の8割に当たる50万人が所属学会を通してこの無駄な医療撲滅運動に参加している。
 日本の国民医療費は現在約40兆円、高齢化の更なる進行に伴い医療費の増大による国民皆保険の危機が迫りつつある。医療費の無駄遣いを減らすことは喫緊に必要な課題であり、この「Choosing Wisely」運動を日本でも医療界全体で推進すべきではないか。
(慈恵医大同窓会理事、東京都国民健康保険診療報酬審査委員)

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