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東京慈恵医科大学同窓会

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2014年10月25日 「数字にならないもの」 (昭61)小田治男


 情報化社会では、数字は無くてはならないものだ。世界中の人々との情報交換に必要な道具であり、身の回りのものすべてが数値化、具体化され、分析・評価されようとしている。この現象は、現代人が抱える不安感、不信感の裏返しともいえるのかもしれない。大学運営も、決算書や患者数、病床利用率、病院ランキング、さらには論文掲載数、国家試験合格率、入試の難易度を表す偏差値など、多種多様な数字に右往左往させられているようにもみえる。
 これらは、ある意味での大学の力を表し、社会から受ける評価の指標として機能しているが、それを追い求めるだけで将来は見出されるのであろうか。収益や患者数の増加は大学運営にとって重要だ。しかし、これらの数字のなかに従事者の勤労意欲や充実度、就労環境などを読み込むことは出来ない。勤務時間を増やせば収入はあがるかもしれないが、勤務者の疲弊度は上昇するであろう。入試の改革によって学力偏差値は上昇し、優秀な人材を集めることに成功した。が、慈恵人として世界に貢献できる人材を育てるには、まだ多くの時間とプロセスを要し、指導者の養成も急務となろう。病院ランキングは、手術件数や外来患者数、在院日数などで病院を評価しているが、「芝の臨床」の精神は、このような数字を追い求めていたのであろうか。
 私立大学は、「志立」大学ともいわれる。それぞれの大学は、学祖の志を継承・実現すべく努力を重ね、生きながらえてきた。慈恵医大も、先人より受け継いできた高木兼寛の建学の精神を旗印に、歴史の中で育まれた独自の校風、慈恵人の根っこともいうべき同窓の絆、そしてそのシンボルといえる重厚な歴史的建造物を礎として長い道のりを歩んできた。しかし現代社会は、数字にならないこれらの貴重な財産を無益なものとみなしかねず、組織の本質すら失ってしまう危険をはらんでいる。
 西新橋キャンパス再整備事業は新たな時代の幕開けを象徴するものであり、この十年間が慈恵の将来を左右するといっても過言ではない。一方、時代はより一層不透明となり、数字のもつ影響力はさらに増してゆくことだろう。事業を進める過程では、数字を鵜呑みにすることなく、全体を見据えた十分な検証を行ったうえで、この数字という有用な道具を活用していくことが重要ではないか。そして、数字にならない財産は、慈恵が慈恵として歩んでゆくための確かな羅針盤となるはずであり、これらを伝承してゆくことは我々の責務である。
(同窓会理事)

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