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東京慈恵医科大学同窓会

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2015年06月25日 論壇 者を作らず、師を創れ
(特)嘉糠 洋陸


 前職が国立の単科大学だったものだから、「大学の特色」について常に自問自答する癖が計らずかな付いてしまっている。一歩間違えると近隣総合大学との吸収合併がちらつく恐怖に、身を依る大学のアイデンティティーの重要性を否が応でも認識させられた。翻って、「専ラ医風ヲ改良シテ学術ヲ講究スルニ在リ」を掲げた成医会と、附設の医学校を創基とする、130年余の伝統と栄誉に浴する本学に辿り着いたのは、ロイヤリティを存分に発揮する場を渇望していた私にとって自然の成り行きであった。そして今、その本学の医育機関としての独自性を改めて問うてみる。
 私の前職では、当時「共同学部・共同課程」の導入が大詰めであった。ライセンス教育のためにA大学とB大学の一部の学科・学部が事実上の合併をするという改革は、各大学の矜持を放棄することに他ならんと、私は反対の立場を取った。しかし国主導の流れに抗えるはずもなく、北大/帯畜大、山口大/鹿児島大など4組8大学で共同教育課程が発足した。なお、文科省の定めで、卒業証書には二大学の名称が連記(!)されることになっている。一部とはいえ、最高学府が単なる“ポリテクニック”(職業訓練校)に堕した瞬間である。
 医学部は、すべからく実学(診療)に根ざした職業訓練の要素を内包する。現在多大な努力で進められている、卒前医学教育の国際認証取得に向けたクリニカルクラークシップの拡充は、医師としての資質のスタンダード(国際標準)を担保するためのものである。しかし、その中に大学の個性や学風が入り込む余地はない。ただ粛々と医業の基礎を刷り込むライセンス教育はあくまでボトムラインであって、毎年約8000人生み出される研修医の中に100余名を送り込む義務を果たしているに過ぎないのである。
 来る未来に、本学と他学をdiscriminationするものは何であろうか。高木兼寛先生の建学精神を尊ぶ本学は、医「者」を作るポリテクニックではなく、医「師」を育てる高等教育機関たることを堂々と宣言し、歩むべきである。この点において、本学の構成員が一枚岩になっているとは言い難い。入試専願で、慈恵が第一志望の若人が集っていた時代は終わり、自然と慈恵人が醸成される本学独自の風土は、今後益々脆弱になるであろう。然るに、大学の特色となるべき、標準的な卒前卒後医学教育プラス「α」の部分を真剣に考えるのは喫緊の課題である。そのためには、次代の慈恵人を「師」たらしめんことを我々の共通認識とすることが出発点である。
(熱帯医学講座担当教授)

【論壇の訂正】
 平成27年5月号2面掲載、井口保之教授ご執筆の「論壇 壱に師匠、弐に師匠、参肆がなくて伍に師匠」で2段目13行“鬼門”は“鬼籍”に訂正し、お詫び申しあげます。

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