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東京慈恵医科大学同窓会

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2015年09月25日 論壇
「医療の質」を考える
(昭61)浅野 晃司


 日本医療機能評価機構が病院機能評価を開始して以降、外来や病棟内に自院の理念や基本方針を掲示する病院が増えており、その文章の中には必ずと言っていいほど「質の高い医療」という文言が入っている。わが慈恵医大附属病院も例外ではなく、病院理念の中には「質の高い医療を実践」、基本方針の中には「良質な医療を実践」という文章が記載されている。自分たちが提供する医療に関する考え方や方針を内外に示すことは必要なことだが、「医療の質」の捉え方は患者・家族はもとより、医療者間において必ずしも同一ではない。
 1980年にAvedis Donabedianは質の高い医療を「医療に伴う利益と損失の差を最大化すると期待されるケア」と定義し、医療の質は「構造」(ストラクチャー)、「過程」(プロセス)、「結果」(アウトカム)で評価するべきとの提唱をしているが、現在ではこの考え方がグローバルスタンダードになっている。「構造」とは機能に見合った人員、設備、体制が整っているか、「過程」とは提供される医療の一連の流れ、手順が適切であるか、「結果」は言うまでもなく治療成績である。病院機能評価もこの三つの視点で評価を行っている。昨今、新聞や雑誌などのマスコミは、未だ普及していない技術や、ごく少数の医師しか行えない技術のみを質の高い医療として取り上げる傾向にある。パイロットで言えば曲芸飛行を行うブルーインパルスや最新鋭戦闘機の操縦士がそれに当たるのかもしれない。確かにこういった技術を「質の高い」と表現するのは正しいとは思うが、そういった基準だけで質を評価すると社会に不正確な認識を与える可能性がある。例えば、一般的に普及している術式であったとしても、常に適正な時間で合併症もなく手術を終わらせ、確実に疾患を治癒に導く医師がいれば、この医師の医療も「質の高い医療」と評価されるべきであろう。看護師も然りで、近い将来現場で活躍するであろう特定看護師のような技能がなくても、個々の患者の病態に合った適切なケアが実践できれば、「良質な看護」と言えるのである。
 本院は現在、新病院、新外来棟建築に向けての準備を進めており、4年後には快適な医療空間を提供することができるが、そこで日々行われる医療は今まで以上に質の高い医療でなければならない。新棟竣工後、患者さんや家族に羊頭狗肉と言われることのないよう、われわれ医療人は常に自分が提供している医療の「質」を検証し続けるべきであろう。
(大学理事・附属病院副院長)

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