トップページ

東京慈恵医科大学同窓会

最新情報


2015年11月25日 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)始まる

 近年、高齢化社会を迎え、動脈硬化(石灰化)に伴う大動脈弁狭窄症例が増加しており、当院での手術患者平均年齢は75歳に達しようとしている。この疾患は前胸部に典型的な収縮期駆出性雑音を呈し、診断は容易であるが、多くは無症状で経過することから放置されやすい。しかし、一旦心不全、狭心症、失神等の症状がみられると、1年の間に多くの患者さんが亡くなるという疾患でもある。手術適応ではあっても高齢だからという理由で拒否されている方が多くいる中、開心術による大動脈弁置換術に代わり、カテーテル操作で大動脈弁置換術を行う低侵襲治療法が導入された。
 この手術は、米国で実施された大規模臨床試験と我が国での四施設における治験を経て、平成25年6月に薬事承認を受け全国で実施可能となったが、関連四学会からなる経カテーテル的大動脈弁置換術関連協議会の厳格な実施施設の審査に合格することが必須条件となっている。この治療は、開心術による大動脈弁置換術が不可能あるいは困難なハイリスク症例が主な対象のため、当院では循環器内科、心臓外科、血管外科、麻酔科、臨床工学士、看護師など多職種から成るHeart Teamを作って対処している。
 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)実施に向け、平成25年12月に関連職種のすべてのメンバーが参加したHeart Teamが設立された。このチームで度重なるカンファレンスを開催し、症例検討や手順の確認、シミュレーションを行い、さらに経験豊富な施設へ見学に行くとともに、チームメンバーすべてが実施資格取得のためのファンダメンタルトレーニングを受講した。協議会から指摘された設備機器の改善には、丸毛病院長をはじめ機器選定委員会の方々に大変お世話になった。
 平成27年8月6日(木)、慈恵医大初となるTAVRが実施された。
 一例目は開心術が困難と思われた80歳代前半の女性で、右大腿動脈アプローチによりTAVR施行、術後の弁周囲逆流もほとんどなく、弁口面積は正常となり、大動脈弁前後の圧較差も消失した。この成功例に引き続き9月3日、80歳代後半の女性に二例目のTAVRが施行された。この症例は一例目に比べ重症で、左室腔も小さく、治療困難な症例であったが無事終了し、術翌日にはICUから一般病室に戻り、その翌日から元気に歩行した。
 二症例がHeart Teamを中心に多くの方々の尽力により成功したことは大変喜ばしいことであるが、今後、この手術法が定着し、慈恵医大を代表する治療法の一つとして確立されるためには、「安全に、確実に」をモットーにHeart Team全員の更なる地道な精進が求められる。慈恵医大同門諸氏には、これまで高年齢(75歳以上)や担癌状態、肺合併症、その他の合併症などで従来の手術方法では耐えられそうもないと考えられた症例についても、是非、循環器内科または心臓外科外来にご紹介頂きたい。
(心臓外科学教授 坂東 興)

top