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東京慈恵医科大学同窓会

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2016年07月25日 第37回慈恵医大夏季セミナー
8月6日(土)PM4:00〜6:30 大学1号館講堂(3階)
テーマ ここまで変わった痛みの治療


司会のことば
精神神経科 中山 和彦
 痛みは、身体的苦痛と精神的苦痛を伴い、医療者にとって古来より、重要なテ―マである。ヒポクラテスは、痛みを取り除く仕事を「聖なる仕事」と呼んでいた。今日、身体的苦痛を取り除き、或いは緩和する技術は様々に開発されてきており、本日はその最先端の知識や技術、その課題についてお話を頂けると期待している。
 一方、精神的苦痛を和らげることも重要である。身体的苦痛の除去や緩和が困難であり、身体的治療では限界が有るとき「心を癒す」術も必要となる。今回はそうした場合のケアについてもお話し頂けるものと思う。
 痛みとの付き合い方について、本学、精神科の初代教授で森田療法を創始された森田正馬先生は、苦痛へのとらわれが症状を悪化させること、とらわれから離れ現実の世界により深く生きようとする心的態度とそれに伴う行動が大切であると説いた。晩年に結核性脊椎炎に苦しんだ正岡子規は、「病牀六尺」の中で闘病生活を描いたが、不思議なほど感傷も暗い影もなく、自身の身体と精神を客観的に描写しており、森田先生の言葉をそのまま実践しているかのようである。
 痛みから患者を救う方法を様々な側面から理解させてくれる本セミナーに期待したい。

夏季セミナー1
最新脳科学で分かってきた
痛みのメカニズム
神経科学研究部 加藤 總夫
 痛みが臨床医学上の問題となるのは、それが苦しいからである。それに立ち向かうには、痛みはなぜ人間を苦しめるのか、という生物学的メカニズムを理解する必要がある。国際疼痛学会は「痛み」を「実際に存在する、または、存在するかもしれない組織損傷に関連した、または、そのような損傷に関連して述べられる、不快な感覚および情動」と定義している。
 この定義を裏付けるべく、近年の脳科学は、痛みが、傷害や炎症の結果として生じる単なる感覚ではなく、情動や記憶などに関わる脳の極めて広範な領域の活動と、その可塑的な変化をともなう情動的な体験であることを明らかにした。痛みは、患者の身体(こころも含めた)が発する「不都合な有害状況」の訴えであり、その生物進化的な意義を理解したうえで、痛みへの囚われからの解放を目指すことが、患者に寄り添った痛みの治療のために肝要である。

夏季セミナー2
痛みの治療アップデート(漢方も含めて)
ペインクリニック 廖 英和
 痛みの治療については薬の服用だけで無く、色々な方法が行われるようになってきた。それらの方法について簡単に説明する。
(1)鎮痛に関する薬剤
非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)・アセトアミノフェン・オピオイド系鎮痛剤・プレガバリン、ガバベンチン・その他の抗てんかん薬・抗うつ薬・ケタミン・プロスタグランジン製剤・リドカイン・片頭痛薬・ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出物・筋弛緩剤・抗不安薬・その他
(2)神経ブロック
(3)リハビリテーション:運動療法など
(4)理学療法*近赤外線照射・低出力レーザー・キセノンレーザーなど
(5)東洋医学治療:漢方・鍼灸療法
(6)脊髄刺激療法(spinal cord stimulation)
(7)コルドトミー
(8)認知行動療法
(9)その他

夏季セミナー3
NSAIDsを中心とした
薬物による腎障害
総合診療部 大野 岩男
 薬物性腎障害の被疑薬としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗腫瘍薬、抗菌薬、造影剤の順に多いとされている。薬物性腎障害は急性腎障害(急性腎不全)で発症することが多いとされており、薬物性腎障害を疑うときには、まず血清クレアチニンを検査し、急性腎不全があるかどうかを見極めることが重要である。薬物性腎障害のリスクファクターとしては、高齢者、既存の腎機能不全、糖尿病、脱水、心不全、敗血症、腎毒性薬物の複数使用などがあげられる。薬物性腎障害の治療としては、被疑薬物の即時中止が重要であり、薬物投与の中止だけで症状の改善がみられることが多くみられる。
 NSAIDsによる腎障害には、腎前性急性腎不全、急性尿細管間質性腎炎、急性尿細管壊死、腎乳頭壊死などが知られている。これらの病態にNSAIDsによるプロスタグランジン抑制作用からくるNa貯留、水貯留、高カリウム血症などが加わってくる。

夏季セミナー4
癌の痛みに対する緩和ケアの役割
麻酔科 下山 直人
 一九八六年WHOがん疼痛治療指針の発表以来、がん治療を発展させるとともに、がん患者の痛みからの解放を、全人的に多職種で行うことが、がん医療の大きな目標の一つとなっている。本セミナーでは以下に示す項目について、緩和ケアの現状と今後の展望を示す。
1. がんの痛みの種類、2.がんの痛みの機序、3.がんの痛みの治療法、薬物療法
4.新たな鎮痛薬の開発にむけての四項目について解説する。がんの痛みは、その強さ、性質も日々に変化することが多く、消化管閉塞時などには投与経路の変更も考慮する必要がある。オピオイド系鎮痛薬による治療が中心となるが、難治性の神経障害性疼痛など、鎮痛補助薬が必要となる場合もある。また、人間のがんの痛み治療では、うつ、不安などの精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛が併存し、相互作用がある点も見逃せない。また、自身に痛みを調節する力があり、それを強める作用に関してもお話しする。

夏季セミナー5
がんの痛みのケアと看護の役割
看護部 角田 真由美
 患者に最も密接して継続的に関わっている看護師によって、痛みのマネジメントの質が大きく変わると言っても過言ではない。痛みが複雑にならない早い段階から痛みを適切に拾い上げ、アセスメントすることが重要となる。
 日々行っている看護技術の中には、痛みの緩和につながるいくつもの要素が隠されており、薬物療法と組み合わせることでより効果が得られる。患者は、ライフサイクルの中でがん治療のプロセスを歩んでいる。看護の視点で包括的に対象を理解するということは、辿ってきた経過とこれから辿るであろう経過を考慮し、現時点での状況を改めて見直すことである。痛みをできるだけ患者の体験に沿って理解する関わりや、その人らしさを尊重した日常生活援助は、重要な緩和因子となる。患者・家族の痛みに関する誤解は根強い。
 セルフケア支援や、患者・家族と多職種間をつなぎケアの層を厚くするチームアプローチも看護に欠かせない技である。

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