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東京慈恵医科大学同窓会

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2020年07月25日 新型コロナウイルス感染症の流行と感染対策

感染制御科教授 吉田正樹

 中国武漢市から広がった新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の流行は全世界に広がり、6月29日の時点で、感染者は1,000万人を越えて、約50万人が死亡している。国内においても18,476人が感染し、972人が死亡している。国内では感染拡大を防止し、死亡者数を抑えるために、?クラスターの早期発見・早期対応、?患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保、?市民の行動変容という三本柱の基本戦略で取り組んできた。特にオーバーシュート(爆発的患者急増)を生じさせない観点から、密閉空間、密集場所、密接場面の3つの条件(3密)が同時に重なる場を避ける取り組み(行動変容)、人と人との接触を80%減少させることが、緊急事態宣言時に行われた。COVID―19の実効再生産数(1人の感染者が生み出した二次感染者数の平均値)は、0・5〜2・5を推移しているが、今までのクラスター解析より、すべての人が他人に感染させているのではなく、約80%の人は、他人に感染させていない。一方で3密においては、1人の感染者が5人以上の複数人に感染させた事例が報告されている。
 感染から発症までの潜伏期は平均5.8日であり、感染性がある(他人に感染させる)のは、発症前2.3日前からであり、発症してすぐにウイルス量は最大となる。発症後6日目以降の濃厚接触者は発症していないことが報告されている。無症状で経過する例も存在するために、感染対策として重要なことは標準予防策(だれもがウイルスを持っているものとして対応する)の徹底である。全ての診療場面においてサージカルマスクを着用し、適切なタイミングと方法で取り外し、手指衛生はWHOが推奨する5つのタイミングを踏まえて実施する。新型コロナウイルスはエンベロープを有するため、アルコール(エタノール濃度60〜90%、イソプロパノール70%を推奨)を用いた手指消毒、石鹸と流水を用いた手洗いのいずれも有効である。COVID―19が疑われる患者に接触する医療従事者は、眼・鼻・口を覆う個人防護具(サージカルマスクとゴーグル/アイシールド/フェイスガード)、キャップ、ガウン、手袋を装着する。一時的にエアロゾルが発生しやすい状況(気管挿管・抜管、気道吸引、気管切開術、心肺蘇生、気管支鏡検査、ネブライザー療法、誘発採痰など)においては、サージカルマスクの代わりにN95マスクを使用する。医療従事者がCOVID―19にならないためには、標準予防策を徹底し、個人防護具の適正使用、手指衛生を励行し、3密の場面に身を置かないことが重要である。
(一般社団法人日本環境感染学会理事長、新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード構成員)

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