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東京慈恵医科大学同窓会

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2020年11月25日 第137回成医会総会パネルディスカッション1

基調講演 世界の情勢について
WHO感染危機管理シニアアドバイザー 進藤奈邦子

 2020年10月現在、新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の流行状況については、世界各国から1日20万人程度の報告があり、死者数は9月29日に100万人を超えた。国別では感染者数最多はインドで、以下、米国、ブラジル、アルゼンチン、ロシア、フランス、イギリスなどと続く。ヨーロッパでは九月に新学期が始まり、夏季休暇から人々が戻ってきて、再び大きな流行が起きている。
 日本はG7中、「名誉の最下位」であり、圧倒的に患者数も死亡者数も少ない。徹底的な疫学調査にもとづいた日本のクラスター対策は大成功で各国のお手本とされている。日本の「3密」は世界でも注目され、WHOも3C(Avo
id the Three Cs:Close-contact,crowded places,closed spaces)として拡散中だ。日本、中国(香港を含む)、ベトナム、タイ、韓国、シンガポール、ドイツ、スイスなど、データ収集力、分析力があり、公衆衛生の基本に基づいたきめ細かな対策が立てられた国は成功組。逆に対応が政治的になりすぎた国は収拾困難な状況になっている。アジア各国はSARS、鳥インフルエンザ、MERSの影響もあり、知識、対策が国民の間で浸透していた。経験と準備が決め手で、ヘルスシステムの強さが死亡者数に反映されている。
 今後の流行については、周期性が特徴の「波」(Waves)ではなく、アウトブレイクあるいはクラスター発生による「サージ」(Surge)が不規則に起こるであろうと見ている。COVID―19が2003年のSARSのように完全に人間界から姿を消すことは想定しにくいものの、徹底した疫学的調査とクラスター制御、サーベイランス、戦略的診断、感染予防制御、近い将来期待されるワクチンや抗ウイルス薬などのほか、個人の責任ある衛生行動などが揃えば、健康、社会、経済被害を回避しつつコントロールできる見通しだ。
 2003年のSARS、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)、2013年のMERSなど、21世紀に入ってからは5〜10年に一度感染症のメジャーイベントが起きている。新興・再興感染症の約7割は人獣共通感染症であり、環境要因等の変化で、動物・環境から人に感染機会が増え、人口増加、都市化、人や物資の移動が活発になっていることなどがその急速な感染拡大の理由として考えられる。
 WHOと世界銀行が立ち上げたGPMB(Global Preparedness Moni
toring Board)による試算では、世界各国のCOVID―19対応費用は、約500年分の感染症対策の準備資金に相当するという。準備不足によってたった1年で人類は500年分を使い切ってしまったわけである。継続した対策に投資する必要性を強調したい。

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