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東京慈恵医科大学同窓会

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2021年02月25日 新型コロナウイルス感染拡大における医学科・看護学科の教育環境

コロナからただでは起きない
医学科長 分子生理学講座担当教授 竹森 重


 年末年始の新型コロナウイルス感染者急増で迎えた令和3年1月7日、慈恵警戒レベルの4への引き上げを受け、昨年暮れから既に配属先のやりくりに追われていた臨床実習を遠隔に切り替え、政府からの緊急事態宣言の発出を受けて年度末の定期試験を可能な限り遠隔評価に代替する措置を相次いで取った。一部の筆記試験等は遠隔による急遽の代替が困難だったことから、感染対策を強く講じながら登校で実施した。臨床実習は、できるだけのことを遠隔で工夫し、実習そのものは止めない意気込みで診療各科教員が取り組んでいる。その一方で病院での臨床実習も、社会と医療の状況に配慮しながら一部で始まっている。医学科入学試験は入試委員会の周到な準備と多数の教職員の協力により実施され、四月からの新入生が近く決まろうとしている。新型コロナウイルス感染症の影響で本試験を受験できなかった受験生のために追試験を実施することは、今年の入学試験の大きな特徴となった。
 今からちょうど1年前の令和2年2月には、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大を睨みながら、卒業式・入学式に続く新年度の教育の実施法をほぼ白紙の状態から考えていた。しかし年度初めの4月には何とか遠隔授業の開始に漕ぎつけられた。今年も卒業式・入学式には様々な工夫が求められると見込まれるが、昨年のように入学式を行えない事態は避けたいとしている。既に新年度カリキュラムは、感染対策を講じながら学びの密度を高めて実施する対面授業と、この1年の経験を活かしたより良い遠隔授業との組み合わせで実施することにしている。より良い遠隔授業に向けては学生から多くの提言・感想が寄せられており、これらを担当教員に個別フィードバックしているところである。目まぐるしく変遷する状況に柔軟に対応する教職員・学生の努力が引き続き求められる。
 講義形式の授業については、資料配信による遠隔授業が多くの利点を持っていたとする報告が多い。本学学生の感想にも、時間を縛られずに自らに適したペースで学べて効率が良いという意見が多く見られたし、成績評価でも例年以上の達成度を多くが示した。同時双方向のコミュニケーションを期待する演習型授業もネットワークを介して実施されたが、こちらは評価が分かれるようで、遠隔の利点を生かす授業形態を十分工夫する必要がありそうだ。実験・実習授業は遠隔代替が最も難しい授業形態だが、登校ができなかった昨年4月から6月期にはそれでも工夫を重ねた遠隔実験・実習が数多く実施された。
 今年の4月からのカリキュラムでは、実験・実習授業に登校での対面授業の時間と場所を最優先で配分している。実験・実習・演習授業について、登校での対面が必須な要素と、遠隔で代替できる要素とを昨年1年の経験を通して理解してきたことが、対面授業の学びの密度を高めることに活かされようとしている。効率的な自己学習と対面授業で学生生活にゆとりを取り戻すことは、「ひと」ならではの活躍が求められる人工知能の時代に向けて、豊かさ・優しさを持つ医療者を育てる本学の使命の実現にも繋がるだろう。個食で黙食しながら人ごみを避けて課外活動もできない環境に失ったものを取り戻すべき時は必ず訪れる。


学生・教職員が一丸となってコロナに挑む
看護学科長 在宅看護学教授 北 素子


 新型コロナウイルスの急速な感染拡大に伴い、本学では令和2年2月、臨地実習の全面中止と、学生に対するすべての大学施設の使用禁止が決定された。看護学科は医学科とともに3月末に新学期から始まるすべての授業をe-ラーニングを用いた遠隔授業とすることとし、学生たちのPC保有状況やウェブ環境を含む学習環境調査と、教員たちによるコンテンツ作成を急ピッチで進め、4月8日から遠隔授業をスタートさせた。5月から予定されていた4年生の老年看護、周手術期の看護を学ぶ実習は、遠隔によるシミュレーション実習でその内容と時間数を担保し、単位認定した。
 5月連休明けには感染の第一波は収束の兆しを見せ、本学の新型コロナウイルス感染症対策本部会議(以下、対策本部)の方針に従って、7月末から必須の対面授業と臨地実習を再開した。遠隔授業は、教材の提示と学生からの課題提出、教員からの課題へのフィードバックがセットとなるため、学生たちはいつも以上に課題に追われることとなり、教員も対応に追われた。その中で、どの教員からも聞かれたことは、従来以上に学生たちが遠隔授業を通して自律的に深く学んでいるということだった。一方、入学当初から友人たちとの横のつながりも、先輩方との縦のつながりも持てず、精神的にもつらい状況におかれた1年生に対しては、看護学科の専任教員が担当するアドバイザーがZoom等を活用して個別相談に乗ることで対応した。これには看護学科学生会2年生、3年生が中心となり、後輩たちに相談会を設けたりして支援してくれた。
 実習は、感染対策を十分に施したうえで再開するために、附属病院看護部と綿密な打ち合わせと調整を行い、1病棟に配置する学生数を減じ、臨床現場で経験すべきことを厳選した上で学内実習あるいは遠隔実習と組み合わせて実施すること、1日の臨床現場での滞在時間は半日として食事を挟まないように工夫することを原則とした。また、様々なパターンで臨床現場での実習が途中で中止となりうることを想定し、即時に遠隔での実習に切り替えできるよう準備した。学生たちやご家族には、新型コロナウイルス感染症に関する正しい知識と感染対策に関する教育コンテンツを配信し、学生には実習開始2週間前からの厳密な健康チェック・管理と体調不良時の報告、アルバイト制限を含む不要不急の外出自粛を徹底してもらった。臨地実習に参加する学生と講義・演習などの登校授業の学生との接触を回避するための、学内の廊下や講義室等のゾーニングも行った。このような対策のもと、12月までに1年生の初めての病院での看護師へのシャドーイング実習、2年生の初めての受け持ち患者実習、4年生の総まとめである総合実習、3年生の領域別実習の約2/3を、感染者および濃厚接触者の発生なく終了させることができた。
 全国の多くの看護系大学が臨床現場での実習を行えない状況にある中で、実習を再開できたのは、対策本部から根拠データに基づいて示される明確な方針と、感染対策部のバックアップ、そして臨床現場の理解と協力、教員達の熱意と献身があってのことであると感謝している。学生たちは様々な制約の下で緊張感を持ちながらも生き生きと実習に取り組み、多くのことを吸収している。令和3年1月、感染の第3波に見舞われ、3年生は残り1/3の領域別実習を遠隔に切り替えて実施することとなった。しかし学生たちはそれまで臨地に赴いて患者さんから学んできたことを元に、実習指導者の方々からの丁寧な情報提供を受けながら、想像力を最大限に発揮して、リアルに迫る学習を逞しく進めている。
 この歴史的な出来事を経験した学生たちだからこそ、蓄えた力があるのではないかと思う。一方、臨地での実習に出られなかったことによるデメリットもあるであろう。看護学科では、こうした学生たちを臨床に送り出した後の移行期支援を4附属病院の看護部と連携して実施していくことを構想している。

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