東京慈恵医科大学同窓会
最新情報2021年03月25日 定年退任にあたって
総合医科学研究センター 遺伝子治療研究部
大橋十也教授
昭和56年に本学を卒業、聖路加国際病院小児科での2年間の研修後、昭和58年本学小児科に入局させていただきました。入局後は衞藤義勝先生の御指導のもと、先天代謝異常症の診療・研究を開始しました。その間、米国でも先天代謝異常症の研究に従事し、ライフワークとなる遺伝子治療法の研究を開始しました。平成7年には大野典也先生、衞藤義勝先生が設立された総合医科学研究センターＤＮＡ医学研究所に異動しました。松藤千弥学長の御高配により平成25年には総合医学研究センターセンター長、平成31年には研究担当副学長を拝命し、本学全体の研究を見渡せる立場にもなりました。
自身の研究テーマはライソゾーム病の神経障害の遺伝子治療法の開発でしたが、何とか臨床応用が視野に入る段階に到達しました。しかし、そのトランスレーションはまさに地獄で膨大な資金、労力が必要な事を思い知らされました。これは今まで行ってきた基礎研究・臨床研究とは別次元のものでした。ＡＭＥＤに採択されたときにＰＯの方より「絶対にあきらめるな」と言われましたが、その意味をかみしめている毎日です。
大学全体の研究に関しては、大学として支援すべき研究は若手が行う基礎研究と、臨床の先生が行う臨床研究であるとの確信に至りました。若手への研究支援は若手に研究の面白さ、大学に在籍する意義を確認させる作業です。また、本学から出る研究成果の大半は臨床研究です。この質を上げることも喫緊の課題です。真剣に患者さんを診療してこそ、リサーチクエスチョンは出るもので、ここを大切にしてこそ本学の存在意義が出るものと思います。
同窓の先生に於かれましては長い間お世話になりました。退任後は少しフィールドを変えて本学の発展に寄与したいと思っておりますので、引き続きの御指導、ご鞭撻宜しくお願い申し上げます。
外科学講座
吉田和彦教授
定年退任にあたり、まずは40年間近くお世話になりました母校に深謝いたします。昭和55年に本学を卒業し、虎ノ門病院で外科レジデントとして4年間勤務後に、櫻井健司先生が主宰する本学第一外科学教室に入局しました。入局後、附属病院以外にも、癌研究会附属病院、川口医師会病院、米国メモリアル・スローンケタリング癌センター、社保大宮総合病院、神奈川県衛生看護専門学校附属病院、東京掖済会病院などに勤務しました。平成16年からは、青戸病院（現葛飾医療センター）に赴任し、以来、外科診療部長並びに副院長、平成30年からは院長として働いております。葛飾医療センターでは、若い外科医と数多くの手術を行いました。副院長としては、主にセーフティマネジメントを担当し、青戸病院事故後の医療安全の担保に注力しました。また、教職員が力を合わせて成し遂げた青戸病院のリニューアルは、大きな思い出になっております。さらには今回、院長として遭遇した新型コロナウイルスに対しても、教職員が一体となり、未知のウイルスに対応しております。
私は医師になって、10年間は学び、その後10年間は自分の仕事をし、残された時間は「人を育てる」ことを目標にしました。虎ノ門病院では秋山先生・池永先生、大学では櫻井先生、癌研では梶谷先生・西先生、スローンケタリングではブレナン先生など、恩師に恵まれました。また、腫瘍外科学や内視鏡外科など、自分の興味のある分野を深めることができました。葛飾医療センターでは院長・副院長・外科診療部長として、さらにはアメリカンフットボール部の部長として、多くの後輩の育成に関わったのみならず、私自身もより成長できたと思います。この度定年を迎えたことができ、安堵しております。最後になりますが、末長い本学の発展を切に願い、退任の挨拶とさせていただきます。
外科学講座
秋葉直志教授
1981年に慈恵医大を卒業し、附属病院の外科研修を修了しました。この翌年国立がんセンター病院で呼吸器レジデントとして3年間過ごし、1989年に櫻井健司教授率いる第一外科に戻りました。呼吸器外科医は当時私一人でしたので血管グループの協力を得て診療を始め、次第に症例も仲間も増えて認定施設になり、2001年には呼吸器外科診療部ができて4年間診療部長を務めました。
2005年に柏病院に移籍し、3例程だった手術を200例近くにまで増やしました。当時まだ新しい64列ＣＴの３Ｄ冠動脈造影の映像を見て驚嘆し、肺にも応用したいと検討を始めました。肺動静脈造影だけでなく気管支樹を創作して３Ｄ肺を作成し、胸腔鏡手術シミュレーションに応用し、その後、肺や縦隔腫瘍の実物大立体モデルを作成するなどして論文を作成しました。その頃浦島充佳先生に誘われて、肺癌術後患者を対象としたビタミンＤサプリメント内服によるランダム化二重盲検試験を開始しました。ビタミンＤ不足者は多く、内服により肺癌の予後が伸びるという結論となり、お陰様で論文はフランス大使館で賞をいただきました。また、ビタミンＤ不足は免疫低下との関与も報告されており、昨年にはＣＯＶＩＤ―１９との関連論文が多数でています。
柏病院にいる16年半の間に、大学の研究会委員会、カリキュラム委員会、慈大新聞編集委員に加えていただき副院長、院長と様々な役割を担当する機会をいただきました。その中で呼吸器外科診療、学生や研修医教育、臨床研究は元より組織マネージメントも経験させていただきました。これまで多くの諸先輩や同僚や後輩に支えられ、多くの学会の友人に恵まれ、皆様のお蔭で定年まで無事に過ごすことができました。本当にありがとうございました。
精神医学講座
中村敬教授
1982年（昭和57年）に本学を卒業後、大学院に進学すると同時に精神医学講座に入局しました。当初から精神病理学（異常心理学）や精神療法に関心を寄せており、1984年から第3病院で北西憲二助教授のご指導のもと森田療法の研鑽を積みました。この時期には、森温理教授のご配慮により学外での勉強の機会にも恵まれました。精神病理学の泰斗であった慶應大学の荻野恒一教授に師事することが叶い、また同門の藤田千尋先生、近藤喬一先生から森田療法やうつ病臨床のご指導を頂けたことは、私にとってまさに僥倖でした。
1992年にカナダ留学から帰国後は、本院精神科病棟長を経て1995年から2014年まで第3病院精神神経科診療部長を務めました。2007年からは新設された森田療法センターのセンター長を兼務し、2008年に教授を拝命しました。第3病院では副院長として7年間病院業務に携わった後、2014年から院長を務めてまいりました。
院長に就任後は「もっと地域へ」を旗幟に掲げ、近隣医療機関との連携や救急診療体制の強化に努めてきました。また患者、家族とのよりよい関係を構築するため、「共感と思いやりにもとづく医療」を推進してきました。こうした取り組みは未だ路半ばですが、世田谷区医師会の足立信一先生、調布市医師会の中村昇先生、狛江市医師会の山口陽先生をはじめ、多くの同窓の先生方から懇切なるご支援を賜ったことはまことに有難く、改めて御礼申し上げる次第です。
定年を間近に控えた今は、「少年易老学難成 一寸光陰不可軽」という漢詩が、一抹の悔恨を伴って胸に迫ってくる思いです。浅学菲才の私をこれまで導き支えて下さった恩師、諸先輩、同僚の方々、そして第3病院の教職員の皆様に心から感謝申し上げます。
心臓外科学講座
森田紀代造教授
1980年国試からまもない4月、当時Ｆ棟中庭にあったプレハブの医局に初めて足を踏み入れ、晴れて憧れの新井心臓外科の一員になりました。卒後ダイレクトに大学院に進み麻酔科・外科研修も経験せずもっぱら心臓外科住み込み修練に明け暮れた医師のスタートでした。思えばいつも目指した領域は深く狭く深層にのめり込んだ41年、帰宅できるのは週2、3日の生活がその後25年以上も続くとは予想もせず、そして結局のところ偶然か宿命か41年のキャリアの9割を本院で過ごすことになりました。本年3月を持って41年の心臓外科医としてのキャリア、小児心臓外科教授としての15年間、母子医療センター長としての12年をここに締め括るにあたり、いま感慨深く振り返っています。
これまで主任教授4代にわたる講座に席を置き脈々と伝わる医局文化の継承に私なりにその時々を精一杯努めました。外で過ごしたわずか3回の機会は1984年動物実験研究に目覚めた埼玉医大研修、1992年私のライフワーク研究『心筋保護』の礎となった世界的権威ＵＣＬＡ:Ｂｕｃｋｂｅｒｇ 教授の元での研究留学そして1997年埼玉小児医療センターでの濃密な1年の手術修練、これら全てはその後の医師人生を方向づける大きな転機となり小児心臓手術の世界に身を投じることとなりました。2005年橋本和弘前主任教授のご高配で49歳の時に小児担当教授を、また2008年には衞藤義勝前教授のご推薦、森山寛病院長の御指名で母子センター長を拝命しました。
気づけば41年超にわたる心臓外科医人生ですが今思い起こされるのは、このまま患者さんを失うのではないかという手術中の恐怖や日常の術後管理の藤に苛まれた記憶の数々です。ここで外科医のメスは一旦おくことになりますが、今後は執刀した者の責務として自らが手術をしたこどもたちのその後の生涯にわたる管理成人先天心疾患医療に努めていきたいと思います。昨今の小児心臓外科医絶滅危機のなか次世代育成がままならぬ現状ですが外科医療の発展を通して微力ながら慈恵医大の伝統の継承ができたとすれば誠に光栄です。これまで支えてくださった慈恵医大で知り得た全ての方々に深謝申し上げます。
41年間誠にありがとうございました。
教育センター
福島統教授
慈恵医大創立100周年の年の1981年に卒業した。学生時代から当時の第3解剖学教室（徳留三俊教授）の研究室に入り、マクロの解剖学だけでなく、光顕、電顕そして組織化学の手法を学んだ。産婦人科開業医の3代目として生まれそれを継ぐために医学部に入ったはずだったが、卒業時には産婦人科開業医がソロプラクティスを行う時代ではなく、解剖学の大学院に進んだ。医学博士取得、助手採用、国内留学、講師昇格、そして米国留学、留学後には学生班が何人も来てくれるまでになった。しかし、1995年に突然、カリキュラム委員になり、解剖学実習を半減するカリキュラムを作り、解剖学講座を去ることとなった。1996年からの新カリキュラムの進行に沿って、1年生からの体系的学外実習、医学総論演習、3年生と4年へのテュートリアル、4年生と5年への客観的臨床能力試験（ＯＳＣＥ）を導入した。講座・科目の試験を撤廃し、コースごとの総合試験を取り入れた。この慈恵医大の総合試験システムは、共用試験ＣＢＴへと繋がることになる。
青戸病院医療事故の報道が2003年9月にあり、報道対応を命ぜられ事故の内容を知ることとなり、2004年1月から11年間、本院・分院で学生も参加する多職種連携の医療安全ワークショップを合計103回行い、8537名が修了した。2003年に文科省が特色ＧＰという競争的教育補助金事業を開始した。2003年から2013年までの間に9本のＧＰの採択を受けた。慈恵医大120周年の時、英国キングス大学からJohn Rees 教授（医学教育）を招いたことをきっかけに、その後、キングスとの間で教員同士の交流が始まった。キングスが実際に行っている医学教育を見る機会に恵まれ、これを本学にいくつか導入した。キングスは入試の面接まで私たちに見せてくれた。産婦人科を目指し、解剖学に行き、そして医学教育で慈恵医大での四十年間を終えます。多くのことを学べたことを感謝しています。ありがとうございました。
内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科
森豊教授
アイスホッケーに明け暮れた6年間の大学生活の後、私は昭和56年に慈恵医大を卒業しました。学外での初期研修の後に昭和58年に現在の糖尿病・代謝・内分泌内科の前身である第3内科学教室に入局しました。私が入局した当時の主任教授は、故阿部正和先生であり、多数の研究グループを有する第4研究室（糖尿病研究室）を率いていらしたのが池田義雄先生でした。第4研究室への入室後、池田先生よりご紹介いただいたのが当時浜松医科大学動物実験施設にいらした西村正彦先生であり、これが私の自然発症糖尿病動物との最初の出会いでした。現在、私は日本糖尿病・肥満動物学会の常務理事を拝命していますが、入局の時点では、このように長きにわたり糖尿病動物とかかわりを持つことになろうとは、夢にも思いませんでした。入局後から現在に至るまでの研究活動を振り返ると、私の臨床研究の根底には、動物実験に基づいた自分自身の実験結果があり、それを基に研究プロトコールを設定したように思われます。私の中では、糖尿病動物の基礎研究と臨床研究は無意識のうちに連動しており、「臨床から動物へ、そして臨床へ」といった一連の流れの中で動物実験や臨床研究が遂行されていったように思います。
今、退任にあたり私の研究活動を振り返ると「人生には人との出会いが必要である」という言葉がまさに当てはまります。研究には、「よき指導者との出会い」、「先輩の引き」、「研究協力者、同僚のサポート」、「後輩の押し（協力）」が不可欠であり、研究は決して一人ではできません。実際、私の研究人生は、学内、学外の多数の先生方によって支えられてきました。40年間という長きに亘って本学に在籍することが出来、充実した研究・診療活動を行うことが出来ましたのも、一重に周りの多くの先生方のご支援、ご鞭撻の賜物と心より感謝申し上げる次第です。今、退任にあたり頭の中をよぎるのは40年間の楽しかった思い出ばかりであり、このような多数の思い出を与えてくれた母校に感謝したいと思います。本当にありがとうございました。
麻酔科学講座
近江禎子教授
平成24年に天木嘉清教授と谷藤泰正教授にお世話になり本学にまいりました。麻酔科は手術室に関係のある全ての科と関わるため、多くの先生に巡り合いお世話様になりましたことをとてもありがたく思っております。看護師さんはじめ臨床工学技士さん薬剤師さんなどのパラメディカルのスタッフや事務職員の方々にも多くのことを教わりました。
私は麻酔科に従事して40年になりますが、麻酔管理の安全性は手術、医療機器、薬剤の進歩により大変改善されました。しかしながら「麻酔は麻酔科医がする。」という根本は40年たっても十分に改善されてこなかったと思っています。特に私が専門にしている脊髄くも膜下麻酔においては麻酔科医が行う比率が上昇したのかも十分にはわかりません。今でも麻酔科医がいないことによる思いがけない事故は起きており、大変心残りに思っており、手術室でのパートナーである日本外科学会からもお叱りを受けとても残念に思っています。厚労省のデータでは麻酔科医は増加していますが、手術件数も同じくらい増加しており麻酔科医一人当たりの手術室の麻酔症例数は変わっていません。さらに、麻酔科医の仕事は手術室の麻酔だけでなく、集中治療、緩和医療、慢性疼痛管理（ペインクリニック）と広がっています。手術室の外での侵襲のある医療においても、鎮静や場合によっては全身麻酔などの全身管理が必要なことも増えてまいりました。近年では無痛分娩の事故の報道より麻酔科医のより一層の産科麻酔への参入も望まれています。この紙面をお借りし少しでも麻酔科医の理解を深めていただければ幸いでございます。
最後に本学では母校愛に溢れ、全ての人たちが同じ方向を向いて進んでいく姿から大きな力を感じています。研修医を含め若い先生たちの真摯に仕事をしている姿を身近に見、揺るぎない未来も感じています。本来でしたら、皆様にご挨拶に伺いたいところでございますが、残念ながらコロナ禍にてそれも叶わず、この場をお借りし、益々の本学の発展を祈念し、19年間の皆様のご厚情とご支援に深く御礼申し上げご挨拶にかえさせていただきます。
総合医科学研究センター アイソトープ実験研究施設
朝倉正教授
私は都立大学卒業ですが、学生時代に当時の放射線科の岡本日出夫技師長と知り合い、医化学教室（現在の生化学講座）の松田誠教授を紹介していただき、同教室に入局させていただきました。それ以来、松田先生には公私ともに非常にお世話になりました。シナプスからのＧＡＢＡ放出機構について調べつつ、先輩の先生方や研究生、大学院生とも自由な意見交換ができました。研究もさることながら、学会の帰りに松田先生たちと小旅行を楽しむこともしばしばありました。また、米国ミシガン州ウェンステート大学留学中もラボの仲間とも話が合い、研究だけでなく週末には一緒にゴルフにも行きました。帰国後、松田先生が「高木兼寛の医学」を執筆されるにあたり、手書きのレイアウトをもとに図の作成をずいぶんお手伝いしました。
大川清先生が生化学講座の教授になられて研究テーマが変わりましたが、ずいぶんお世話になりました。薬剤耐性の克服薬の開発をしたのですが、周りからは毒を作ったんだろうと言われながらも、非常に効果の高い抗がん剤誘導体を合成しました。また、多くの研究生や大学院生を受け入れておりましたので、毎年一人は必ず直接指導していました。
吉田清嗣先生が教授になられてから、アイソトープ実験研究施設に転科させてもらい教授の席をいただきました。ここの部下たちも仕事に対して速やかに行動してくれて素直なのでとても良い環境でした。また、委員会等でお世話になった事務の方もとても優しく応対していただきました。
このように、自分の慈恵での生活を振り返ると、恩師の先生や先輩・後輩、事務系の方々などとの人間関係に非常に恵まれていたと思います。みなさま、本当にありがとうございました。
放射線医学講座
貞岡俊一教授
私は他大学を昭和57年に卒業後、出身地にできた新設医大の内科で3年間研修し、昭和60年に慈恵医大の放射線科に入局いたしました。田舎者で放射線科についての知識がほとんどなかった私に対し、当時の放射線科教授の望月先生、当時助教授の川上先生、多田先生はじめ医局の先生方に温かく迎えていただきました。私は、今後画像診断が臨床の要となると思い内科から転科いたしましたが、多田先生に相談したところ、内科出身だから診療もできるＩＶＲを中心にやれといわれ、血管撮影の基礎やその頃始まったばかりのＩＶＲをこれらの分野で新進気鋭であった山田先生はじめ多くの先生方について教えて頂きました。以前の職場では考えられないくらい毎日が楽しくて、関連病院も含めて35年間ＩＶＲの発展と共に臨床・研究にと励むことができたと感謝しております。知り合いのいない慈恵医大でしたが、他科との触れ合いの多い放射線科のなかでもＩＶＲを受ける患者さんを通じて多くの先生方と触れ合うことができました。それらの先生方が温かくて真摯に患者さんに向き会っているのを見て「病気を診ずして病人を診よ」という理念が、いずれの先生にも浸透しているのだとわかりました。慈恵では臨床研究教育の他に、ＣＶカテーテルの認定制度の構築にも携わってきました。また、病院の経費節減や保険についても勉強させていただきました。このように多くのことを学ばせていただいた慈恵医大で働くことができたことは、私にとって幸せでした。楽しく充実した職場を与えて頂いた大学、医局の先輩、後輩の皆様、放射線技師、看護師、事務員の皆様には心から感謝いたしております。最後になりましたが、これからの慈恵医大の発展を祈念しまして退任のあいさつとさせていただきます。長い間ありがとうございました。
大学直属
田��哲典教授
「子曰く、…40にして惑わず、50にして天命を知る…（論語）」針刺し事故によるＣ型慢性肝炎で今後に悩んでいた私は40歳の時、輸血医として進むことを決意し、福島から盛岡に移りました。そして50歳で慈恵医大に赴任しましたが、これこそまさに天命であったと思います。上京後は前任地での残務整理を行いつつ、先ずは東京の生活に慣れること、子供らの就学、そして大学での諸業務などで、初年は慌ただしく過ぎました。
2011年に診療部長就任後は、臨床（外科）医として輸血を行っていた経験から、「安心輸血」を現場に届けるのが役目、と考え対応してまいりました。慈恵医大の15年間で心に残ったこと5つといえば、第1に東日本大震災、第2に輸血・細胞治療部創設55周年記念会、第3に厚労省関連、第4に新外来棟への移転、そして第5は最近の新型コロナウイルスです。地震では実家の一部が壊れ、家族、知人友人の生活は混乱しました。輸血・細胞治療部創設55周年記念会が栗原理事長をはじめ多くの関係者にお集まりいただき開催でき、また記念誌も発行できて安堵しております。
厚労省関連では血液事業部会委員の時に輸血によるＨＩＶ感染が発生したこと、また研究班長としてＴＲＡＬＩ（輸血関連急性肺障害）とＴＡＣＯ（輸血関連循環過負荷）鑑別のアルゴリズムを策定できたことです。新外来棟への移転で輸血・細胞治療部も心機一転です。新型コロナウイルスでは献血者への感謝の気持ちを新にいたしました。輸血は全ての診療科での治療に関わっており、今後とも皆様のご支援をお願い申し上げます。14年間、本学の卒業生と何ら変わることなく務めさせていただき有難うございました。今後の慈恵大学の更なる発展を切に願い、退任の挨拶といたします。
外科学講座
武山浩教授
私は1983年に本学を卒業後、桜井健司先生が主任教授をされておりました第一外科に入局致しました。2年間の外科研修後、大野典也教授が主宰されていた免疫学講座（第一細菌学）に大学院生として派遣していただきました。当時は後にノーベル賞を受賞したモノクローナル抗体の作成が成功した時期で各種の癌に対して研究されており、この抗体療法で癌は完治可能となるのではないかとの期待が盛り上がっている時でした。私もまだ作成されていない癌腫で抗体を作製することを目指し、第一外科から甲状腺癌の手術検体をいただき研究を始めました。初めてのことばかりで悪戦苦闘の毎日でしたが1987年に作製のめどがつき、またこの研究のおかげで現在でも乳癌の腫瘍マーカーとして使用されているＣＡ１５―３を作製したハーバード大学ダナ・ファーバー癌研究所のD.W Kufe教授の下で勉強する機会を得ました。1985年の免疫学講座派遣から1990年に帰国するまでの5年間に、医学研究に向き合う姿勢、基礎研究から臨床応用への発展方法など多岐に渡ってご教授いただきました。1991年からは臨床を主としながら研究も続け1994年第1回東京慈恵会医科大学医師会研究奨励賞、1998年東京都医師会医学研究奨励賞、2001年日本外科学会優秀演題賞を受賞致しました。2005年からは外科学講座の統合により勤務可能となった第三病院外科に赴任し岡本友好部長のもと5年間楽しく勤務し、2011年よりは本院で乳腺内分泌外科診療部長として診療部医員とともに苦労もありますがこれも楽しく勤務しております。またこれらの臨床、研究の一区切りとしまして、2019年に慈恵医大外科学講座としては44年ぶりとなる日本内分泌外科学会も主催させていただきました。
慈恵医大にお世話になってアッという間の40年でした。この間無事に過ごせましたことは、大学同窓の先生方や外科学講座の皆様のご指導、ご支援の賜物と心より感謝申し上げる次第でございます。今後も微力ながら本学に貢献できればと思っております。
