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東京慈恵医科大学同窓会

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2023年03月25日 第1268回成医会例会開催

知念実希人君による講演
「医師として、小説家として」

 令和4年2月6日、知念実希人(ちねん みきと)君(平16)を西新橋キャンパス2号館講堂に迎え、第1268回成医会例会を開催した。新型コロナウイルス感染が未だ収束していない中での講演会のため、参加人数を絞り葛飾医療センターと第三病院と柏病院に配信した。本講演は本学e-learningでも1ケ月の間閲覧可能となる。
 招待講演者の知念実希人君は、1978年に沖縄に生まれ、本学を卒業した後、内科学会認定医を取得し、現在も診療に従事しているが、本業は小説家である。診療は週1日だけでほとんどの時間を執筆に費やしている。
 2011年に『レゾン・デートル』で第4回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、翌年に同作を改題した『誰がための刃 レゾンデートル』でデビューした。そして『天久鷹央の推理カルテ』シリーズが人気を博し、『仮面病棟』が2015年啓文堂書店文庫大賞を受賞し、ベストセラーとなった。その後、『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』『ムゲンのi』『硝子の塔の殺人』が、それぞれ2018年、2019年、2020年、2022年の本屋大賞にノミネートされた。さらに『優しい死神の飼い方』『黒猫の小夜曲』『屋上のテロリスト』『神のダイスを見上げて』『レフトハンド・ブラザーフッド』『十字架のカルテ』『傷痕のメッセージ』『真夜中のマリオネット』など多数の作品を執筆している。多くの読者に支持されている注目のミステリー作家である。
 講演では出版業界の現況について言及した。インターネットなどにおされて出版業界自体が厳しい状況にあること、ますます売れていない作家には厳しいこと、多くの作家は小説だけで食べていくのが難しいこと、売れてはじめて一人前として扱ってもらえるとのことであった。昔は一人前の小説家になるには、原稿用紙が自分の身長と同じ高さに積み上がるくらい書いてはじめて一人前だという話もあったとのことである。
 ただ、“物語”というものに対する需要は高まっており、特に医療に対する情報は常に求められているとのこと。「医療が何をしているかが分からないことで、医療不信が起こることもある。正しい医療情報を発信することも重要である。自分の書いている医療小説は正しい医療情報を発信する役割も担っており、医療を正しく理解してもらうことで、医療に関する誤解も減ることを期待している」と聴衆にメッセージを送った。
 医療小説を通して患者さんや家族が医療の正しい知識を提供することは医師としての大切な役割でもあると感じた講演会であった。誰にでもできる使命ではないが、同窓の才能のある知念君が自らの強みを生かして、全国の患者さんや家族の力になっていることを誇らしく感じた。
(成医会運営委員長 繁田雅弘記)

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