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東京慈恵医科大学同窓会

最新情報


2024年08月25日 LiveUpCapsules公演(作・演出 村田裕子)
演劇 学祖を主人公とした「須く、一歩進む」上演される
後援:東京慈恵会医科大学、慈恵医大同窓会


学祖の演劇を大学と共に同窓会が後援
東京慈恵会医科大学同窓会 会長 武石昌則

 令和6年3月29日〜31日の3日間、東京新宿のこくみん共済COOPホールで学祖 高木兼寛先生が主人公の演劇「須く、一歩進む」(ライブアップカプセルズ作・演出村田裕子)が公演された。3日間全5公演で1,136名が鑑賞された。
 同窓会長として常に胸中にあるのは、高木兼寛先生の事をもっと同窓会会員や一般の方に知っていただきたいとの想いである。それは「群星光芒 高木兼寛」単行本の発刊や高木兼寛A4版リーフレットの作成等で少しずつではあるが具現化してきた。今回は「演劇」という思ってもみなかった分野においての試みである。今年2月に松藤千弥学長から具体的なお話を聞き、今までには無い視点で、学祖の偉業を広報できる機会と捉え、大学と共に同窓会も後援させていただくことになった。具体的な支援内容は、慈大新聞での広報・折り込みと学生教職員250名の動員である。
 この演劇集団を率いる村田裕子氏は新進気鋭の演劇作家であり、過去にサンモールスタジオ脚本賞・照明賞、せんがわ劇場演劇コンクール戯曲賞などを受賞している。本学との関わりは、4年前に北里柴三郎を主人公とした舞台「雷を振れり」の制作に本学が協力した時からのご縁である。
 観劇した様子は、舞台を挟む形で観客席が設えられ、素早い場面展開と音響効果・照明効果が相まって一体感があり、観客はその舞台に吸い込まれていった。時空を超えて、高木先生の挑戦が押し寄せる幾多の困難と共にあったことを改めて肌感覚で感じられた。舞台が終了し観客席が明るくなると、観劇者の方々は感動し、至る所で歓喜の会話がなされていた。学祖の偉業を演劇という新しい視点で表現されたことはとても斬新であった。また、脚本及び演者のクオリティが非常に高く、このような形で高木先生を表現して下さったことに感謝の意を表する。最後に流れたナレーションの「人々の中に、真実があるのです。あなたの目を曇らせぬよう」は現代にも通じるメッセージであり、心に刻まれた。この感動をどのように同窓会会員並びに後世に残せるかを今後検討したい。
 最後に、この演劇に企画段階からご尽力された嘉糠洋陸教授、そして共に後援してくださった本学の栗原敏理事長、松藤千弥学長に心より感謝申し上げたい。


“須く、一歩進む”を観劇して
学校法人慈恵大学 理事長 栗原敏

 高木兼寛先生を主人公とした“須く、一歩進む”を今年の3月30日に、新宿の小劇場で観劇した。小さな劇場で客席と舞台の距離が短く、真ん中の舞台を取り巻くように客席が配置されており、私の想像とは異なる劇場に少し戸惑いを感じたが、この距離が臨場感をもたらしていた。英国留学から帰国した高木先生が現れて演劇が始まった。
 演劇は速いテンポで進行し、明治時代、多くの若い人が命を落としていた脚気が話題になり、漢方医や高木先生に協力した松山棟庵が登場して、観客は引き込まれていく。
 また、登場人物も多彩になり、看護婦教育所の創立に協力した大山捨松(大山巌夫人)も登場して、高木先生が看護婦の教育に尽力されたことが語られ、先生の活動が、医師の育成だけでなく医療の上で大きな役割を果たしていたことが演じられた。核心は、練習船龍驤と筑波を使った航海実験で、脚気の原因は食事にあることが明らかになるが、森林太郎(鴎外)を中心にドイツ医学を学び帰国した頑迷な秀才達は、脚気の原因は栄養の欠陥であることを認めず、海軍と陸軍の間の論争に発展した。陸軍では脚気による多数の死者が出た。多くの脚気患者は苦しみ命を失った。“論より証拠”か“証拠より論”か。
 第3代学長を務め高木先生の高弟だった医化学の永山武美教授も登場した。高木先生に命を助けられた渋沢栄一翁の名前もでてきて、渋沢翁が治療費を取らない病院運営に尽力したことが語られた。最後に、高木先生の演説があり、その中で、“救えたはずの幾千万の命があったことを決して忘れません”という言葉が重く響いて幕が下りた。
 観劇の後しばらくしてから、作家であり、この演劇の演出を手掛けたLiveUpCapsulesの村田裕子氏に会う機会があった。村田さんは、松田誠先生の本を何回も読み込んで調べ、この劇を創ったと言っていたが、実に、史実を良く調べ考証したことを窺わせる劇で、高く評価したい。


劇評「須く、一歩進む」
東京慈恵会医科大学 学長 松藤千弥

 そもそも私には観劇の習慣といったものがない。学長に就任して以来観たのは、宮崎の穆佐小学校の児童達が演じた「兼寛(けんかん)先生」を主人公とする劇くらいである。今年3月29日、久しぶりに劇場で観たLiveUpCapsul-esによる舞台「須く、一歩進む」の主人公も学祖であった。しかもテーマは学祖による脚気克服の道程である。知っている話を劇にしたらどうなるのだろう、くらいの感じで観始めた舞台に私は一気に引き込まれた。作・演出を担当する村田裕子氏の斬新な表現、観客との垣根がない多面舞台から伝わる出演者の熱量、何よりも科学的あるいは歴史的問題点の本質を、わかりやすく楽しく伝える表現のひとつひとつに、感動を通り越して驚嘆し、観終わってからも余韻に長く支配された。
 この演劇を、嘉糠洋陸教授から紹介されたとき、どうして本学や宮崎と縁のないLiveUp Capsulesという舞台集団がこのテーマを取り上げたのか疑問に思った。答えの1つは、嘉糠教授がその構想段階からアドバイスをされたとのことであった。おそらく強く勧めてくれたに違いない。さらに、Live UpCapsulesが「日本の歴史を題材にし、今に通じる問題を抉り出す」の信念のもと、渋沢栄一や北里柴三郎を主人公とする舞台公演を成功させてきたことを教えてもらった。この舞台を通じて、現代のわれわれに投げかけられた脚気論争の構造や苛立たしさにも強く納得し、改めて怒りを感じたのであった。
 大学がこの舞台を後援することに学長として関与したおかげで、公演前に村田裕子氏にお目にかかったり、稽古場を見学したりすることができた。ネットオークションで偶然見つけた木製の打腱槌をお届けし、舞台で使っていただいたのも良い思い出である。
 この舞台を、本学関係者はもちろん、それ以外の多くの方に是非とも観ていただきたい。再演を待ち望んでいるが、3月公演のDVDも販売されるとのことである。観れば新たな発見があることだろう。

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