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東京慈恵医科大学同窓会

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2020年05月25日 コロナと世界
科学信じ「新常態」に備え
WHOシニアアドバイザー 進藤 奈邦子氏


 慈大新聞広報委員会では学内外でご活躍されている会員を紙面で紹介しております。
 令和2年4月22日付日本経済新聞朝刊1面に進藤奈邦子客員教授(平2)の記事が掲載されておりました。日本経済新聞社の許可を得ましたのでご紹介します。

【日本経済新聞朝刊 令和2年4月22日付1面より転載】




 ――中国はロックダウン(都市封鎖)で新型コロナウイルスの感染を抑制しましたが、イタリアなどは失敗しました。

 「中国はSARS(重症急性呼吸器症候群)以来、患者急増時の対応や集中治療室(ICU)の強化など対策を進めた。武漢市には4万人の医療従事者が駆けつけた。シンガポールや韓国などアジアの国に共通するが感染症の経験値があった。欧州は当初は対岸の火事のように見ていた」

 ――収束への道筋は見えますか。

 「新型コロナは微熱などの発症当日にウイルスの量が最も多く、感染に気づかずに人が動くので感染が一気に拡大した。患者が殺到して医療機関が限界に近づけば、助けられる人から助ける、という倫理的に厳しい判断が迫られる。新型コロナとそれ以外の病気に対応する病院を分ける役割分担や、応援態勢の準備も重要だ」
 「欧州は厳しい外出制限などの効果が出て安定してきた。世界保健機関(WHO)は日常生活に戻すための判断基準を作成した。世界全体ではいったんは感染が落ち着く時期がくる。大事なのは次の波をどう抑えるかで、そのためには国際協調が欠かせない。挑戦は受けるし、こちらも自信を持って説明する」

 ――経済活動の再開の手段として感染歴を調べる抗体検査に乗り出した国もあります。

 「抗体検査の信頼性はまだ確立していない。抗体をもっていることがどれだけ免疫防御になるのか、有効期限はどの程度なのかなど分からない点が多い。抗体検査の結果で外出制限を緩和するのは時期尚早だ」

 ――日本がコロナを抑えるのに必要なことは。

 「緊急事態宣言はメッセージ性はあるが、規制内容は弱い。感染者の接触歴を徹底的に調査することが最も大事だ。日本は恥の文化が強いので接触調査で正直に言えない人も多い。誹謗(ひぼう)中傷しないで、職場や学校が受け入れることが大切だ。日本人は衛生観念がしっかりしているので、孤児な自覚を持って行動して皆で協力すれば必ず乗り越えられる」

 ――トランプ大統領がWHOの資金供出の停止を表明しました。

 「米国がWHOの根本的な対策を疑っているのか、感染が拡大したからスケープゴート(いけにえ)として攻撃しているのかは分からない。ただ、WHOを潰せば問題が解決するかといえば、それは違うだろう」

 ――新型コロナの教訓は何でしょうか。

 「21世紀に入って経済や社会活動は点から線に、線から面に、面から立体になっている。今までと物事のスピードが圧倒的に違い、感染症も瞬時に拡大する。新型コロナは異常事態ではなく、『ニューノーマル(新常態)』ととらえて対策を打たなければならない」
 「対策の根本は科学を信じること。科学に基づく準備がいかにできているかが、流行を抑制できるのかの分かれ目になる。政治家の強いリーダーシップも必要だ。最終的には一人ひとりの行動にかかっているので政府・企業と個人とのコミュニケーションが重要になる」

(聞き手はジュネーブ=細川倫太郎)

WHOシニアアドバイザー 進藤 奈邦子氏

1990年東京慈恵会医科大卒、国立感染症研究所主任研究官を経て、02年からWHOで勤務。新型インフルエンザやエボラ出血熱など感染症の危機管理を指揮。

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