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東京慈恵医科大学同窓会

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2022年02月25日 定年退任にあたって
自然科学教室・化学研究室 岡野孝教授


 2008年4月に国領校化学研究室教授に採用していただいて14年が過ぎました。前任は、名古屋大学エコトピア科学研究所という怪しげな片仮名名の研究所で、有機合成化学的な手法によるバイオミメティックナノ材料というものの研究開発を行っていました。そのとき、「物質世界の認識」というタイトルだけが決まっていて教育内容は自分で設計してよいという新入生向け講義を担当していたことが、医学部でも分子認識を基盤にした化学が教えられるのではないかと考えるきっかけとなり赴任しました。
 慈恵にきてからは、残念ながら本来の専門の有機フッ素化学の合成研究はほとんど進展しませんでしたし、多くの先生方からあれを作ったら、これができればと合成研究のご示唆を頂きました。しかし、私の力不足でほとんど役に立たなかったことは大変申し訳なく思います。ただ、教育面では多少の進展がありました。タンパク質の立体配座に重要な影響をもつアミノ酸の酸塩基平衡ですが、基本となる有機酸・塩基の酸性度定数が、古来、有機化学の教科書に掲載されている表では、なぜか、水の酸性がメタノールの酸性を下回る値が表記されていました。これが酸電離定数の定義上の誤りに起因していることに気づきこれを正して教育することができるようになりました。また、以前から有機化学特有の手法である「共鳴構造式」はもう教えない方がよいのではないかと考えていましたが、共鳴構造式がわからないと、泣いて質問に来た学生がいて、泣くほど意味不明な概念なんだなと思い、より真実に近い概念である分子軌道法を基盤にした化学教育を実践できたつもりです。
 最後になりましたが、改めて、14年間の皆様の厚いご支援に感謝いたします。

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