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東京慈恵医科大学同窓会

最新情報


2021年07月25日 新型コロナウイルス感染症対策の1年半を振り返って

東京慈恵会医科大学附属病院院長
井田 博幸

 慈恵大学病院は2020年2月10日ダイヤモンドプリンセス号からCOVID―19陽性患者さんを収容しました。それ以降も積極的にCOVID―19診療に従事し、6月27日時点で延べ721名の入院患者さんを受け入れています。慈恵大学病院におけるCOVID―19への対応を病院長の視点から記載します。
 病院長としてまず感染対策部とCOVID―19診療に関わるメディカルスタッフをメンバーとするTeam COVID―19を立ち上げ、慈恵大学病院の現状/問題点の分析と病院としての対策の立案/作成を行いました。COVID―19は病院のみならず、学生の授業/実習などにも影響を及ぼすことが危惧されましたので、理事長・学長・医学科長・看護学科長・看護専門学校副校長などをメンバーとする新型コロナウイルス感染症対策本部を設立し、慈恵大学の対応を決定しました。
 次にゾーニングを確立しました。成人の軽症・中等症のCOVID―19陽性患者さん、COVID―19疑い患者さん、一般の患者さんを収容する病棟をその時の状況に応じて設置しました。その結果、中央棟・E棟の病床再編を三回行い現在に至っています。妊婦・小児患者は母子医療センターに、重症患者はICUに収容しました。
 そして、充実した検査体制を構築しました。現在、熱帯医学講座と中央検査部でPCR検査を行い、院内での多数の検体処理と変異株の同定が可能です。また、迅速にPCRの結果が判明する機器を導入し緊急入院患者さんに対応しています。さらに、入院前検査センターを設立し、入院前の患者さんに対して全例PCR検査を行い病棟内へのCOVID―19の持ち込みを防いでいます。5月31日時点で15,787名に対して検査を行っていますが、25名の無症状COVID―19陽性患者さんを確認しています。
 その他、ビニールカーテンの設置、換気の改善、個室化の推進など環境/施設の整備を行い、教職員への配慮として特別手当ての支給、メンタルサポート室の設置などを実施しました。また、News Letterを毎月発行し、Alluserメールで配信するとともに電子カルテトップ画面に掲載し教職員とCOVID―19に関して情報共有しています。
 以上のように慈恵大学病院はこの一年間でCOVID―19に対する体制を整備しました。その基本方針は教職員と患者さんの安全を第一に考えること、そして社会貢献としてのCOVID―19診療と特定機能病院の役割を両立させることでした。病院の方針を理解し、高い職業意識をもってCOVID―19に立ち向かってくれた教職員に病院長として心から感謝しています。そして、財政面のみならず精神面でも支援していただいた同窓をはじめとする慈恵大学を愛して下さっている方々に病院を代表して厚くお礼申し上げます。


葛飾医療センター院長
吉田 和彦

 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の拡がりを受け、当センターは2020年2月に多職種から構成される「Team COVID―19葛飾」を設立した。これまでに院内各部門と連携して発熱外来の設置、診療体制の構築、検査体制・治療薬・個人用防護具(PPE)・医療材料・ワクチン接種体制の整備等を行ってきた。立案した感染対策は「Team COVID―19葛飾 速報」として全診療部長・所属長・院内各部門へ配信・配付して迅速に周知を図り、電子カルテ上に収載して全ての外来・病棟で閲覧可能としている。
 診療は病院入口で患者トリアージを行い、救急部門に設置された発熱外来(新型コロナ外来)で疑い患者を診察し、入院を要する場合は九階病棟(COVID―19専用病床)、ICU等に収容する体制で対応している。院内への持込を防ぐためにトリアージのほか入院予定患者の健康チェック、入院前PCR検査等を実施し、疑い症例に対して積極的に検査を行っている。病棟は市中の感染状況に応じて柔軟に病床を運用し、内科全科を始めとする全診療科で診療している。2020年5月に東京都感染症診療協力医療機関、7月に東京都新型コロナウイルス感染症入院重点医療機関となり、都内から幅広く患者を受け入れ、2021年6月末までに入院患者365名、外来患者109名の診療を行った。
 検査は当初は本院やSRLでの外部検査であったが、2020年7月より抗原検査を、8月よりSARS―CoV―2核酸検出検査を院内で実施している。治療薬は国内外の報告をもとにファビピラビルを2020年4月に、レムデシビルを8月に使用できるよう整備し、レムデシビルはこれまで140例以上に使用している。2021年3月、4月、6月に院内感染が発生したが、病棟一時閉鎖、職員濃厚接触者の就業制限等を行い対応した。2021年2月に飾区により新型コロナウイルスワクチン連携型接種施設に認定され、自施設の医療従事者に加えて、かかりつけ患者、一般住民のワクチン接種を行っている。
 COVID―19の病態に応じた治療法の研究や国民へのワクチン接種が急速に進んでいるが、一方で変異株の多様化がみられている。地域に密着した病院として、引き続き病院一丸となって対応していく。
 (吉田和彦・葛飾医療センター感染制御部 吉川晃司)


第三病院院長
古田  希

 第三病院では2020年4月1日最初の新型コロナウイルス感染症患者を受け入れて以来、現在までに約12,000検体のコロナウイルス検査を実施し、延べ269名の入院治療を行いました。第1波では対策会議の発足、発熱外来設置、全身麻酔手術の休止、診療科毎の業務制限、2C結核病棟のコロナ治療病棟転用、内科発熱外来開始などを決議実行しました。第2波では感染症拡大、緊急事態宣言発出を受け、第三病院リニューアル事業を一年間遅らせる決定をしました。11月の第3波期間中に開催された感染症・感染管理講習会「新型コロナウイルス感染症の現状と展望」(演者岡部信彦客員教授・昭46・川崎市健康安全研究所所長)には277名もの職員が聴講し、関心の高さがうかがわれました。
 2020年12月29日〜2021年1月3日の間に、院内診断例を認め、当該病棟閉鎖、第2コロナ病棟の追加設置、紛れ込み防止目的の急患待機病棟を設置しました。救急の初診受け入れ原則停止、不急手術の延期、外来初診患者診療制限、PCR(またはTRC)による入院前全例検査を開始し、さらに入院四日後のスクリーニングも加え、院内への持込防止策強化を図っています。収束後、診療制限は解除致しましたが、持込防止体制は現在の第4波においても継続しています。本症に対する病床確保により一般稼働床は400床弱ですが、効率的な病床運用と診療単価の増加で何とか予算を達成している状態です。一方、リニューアル事業は現在基本設計の段階ですが、感染対応には今回の経験に基づき十分配慮し、感染患者と一般患者が交わらない動線、各病棟に陰圧室設置、病棟一部もしくは全体を感染隔離エリアに転換可能な構造など計画中です。
 ワクチンの接種は4月中旬より開始し、教職員(委託業者含む)では5月中旬に2回目接種が完了し、6月中旬までに近隣医療機関対象者、学生(医学科、看護学科、看護専門学校)および基礎系講座職員に対する接種も完了しています。まだまだ収束の見えない状況ですが、病院職員全員が一致団結して感染予防を図りながら、より安全な医療の提供に努力していく所存です。


柏病院院長
秋葉 直志

 新型コロナウイルス感染症患者数は急速に国内で増加し、昨年3月に先の見えない状況に入りました。当院においては3月末までは体温測定やマスク着用等の基本的感染対策の徹底を推進し、通常診療を維持しました。
 政府による4月7日緊急事態宣言発出に先立ち、病院独自の緊急事態宣言を4月1日に発出しました。予定手術を延期して入院数を制限し、病床稼働率は62%を目途としました。重症感染患者をICUに受け入れ、4月25日には49床の病棟をコロナ専用病棟としました。政府の5月25日緊急事態解除に先立ち当院は5月12日に解除し、ヒット&アウェイ作戦を始めました。これは感染者が再増加するまでは当院の役割を果たすべく、入院稼働率の目標を75%に設定し急速な病床回復を目指すことです。再感染の波があれば再度撤退する積りでしたが、実際には入院制限は不要で、その後目標を80%、85%と上げていきました。
 8月には柏市より新型コロナ重点医療機関に指定され、夜間輪番当番に参加しました。補助金を利用して、病院建物横に感染者用のCT装置と診察室を作ることができました。当院の新型コロナの入院患者は6月13日までで127例、重症例は33例、中等症は23例でした。ワクチン基幹型接種施設として、当院関係者への接種を本年4月から開始、かかりつけ患者への接種を6月に開始しました。7月からは柏市集団接種に協力します。地域性が高い当院の機能維持には、集団免疫の獲得は重要課題と考えています。
 当院の立ち位置を説明します。救命救急センターは柏市では当院だけであり、茨城県や埼玉県からも救急患者さんが来院します。「地域における最後の砦」と考えて病院運営をしています。救命救急センターは止められませんし、コロナ重症患者診療も担わなくてはなりません。当院のICU14床は以前より手術例と救命救急センターからの入院で慢性的に不足していました。常時二例ほどの重症コロナ患者が入院しておりますが、スタッフを集中させるため残り6〜8床しか稼働できません。手術例と救命救急センター例とコロナ患者のICU収容バランスが困難で診療の維持に苦労しています。
 このような中、教職員の努力とともに健康管理の励行と感染防止対策により、幸いにも院内クラスターが発生せず、教職員の陽性者もごく少数にとどまっています。

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