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東京慈恵医科大学同窓会

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2021年11月25日 第138回成医会総会シンポジウム
「コロナからただでは起きない」


 今年の成医会シンポジウムは、昨年より続く新型コロナウイルス感染症の影響によってオンライン開催となった。冒頭、竹森重分子生理学講座教授より、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の1年の経験を活かして新たな社会を構築していく必要があり、このシンポジウムを新たな社会と暮らしの手がかりを探るものとしたいとの趣旨説明があった。
 まず三崎和志人間科学教室教授が、「パンデミックと人間の在り方」として、〈危機〉は〈正常〉な状態では目につかない世界の存立構造や、人間の特性をあらわにすること、〈危機〉は、当面の問題への具体的な対処法だけでなく、これまでの世界と人間、人間と人間の関係をめぐる根源的反省を誘発すると指摘した。
 続いて鈴木克己外国語教室教授が、「パンデミックについて文化の視点から」として、中世ヨーロッパ社会を襲った黒死病と呼ばれるペストなどに言及しながら、時代も場所も異なるが、所詮人間が行うことと思えば、程度の差こそあれそこに大きな違いはないとし、カレル・チェペックの戯曲『白い病』を引用し真に恐ろしきものについて述べた。続いて小澤隆一人間科学教室教授は、「パンデミックと(現代)社会」として、医学における進歩は孤立して起こるものではないということ、医学は全体の進歩の一部に引きつづいて起こり、かつその一部をなしていること、日々繰り返され増大している医療と社会の間での相互作用は複雑になっているというP・ローズの言葉を引用し、その意味するところを考えた。続いて阿保順子長野県看護大学名誉教授・北海道医療大学名誉教授は、「偏見を超えた社会へ」として、なくなったと思っていた一般市民による看護師への隠微な蔑みの目は、新型コロナの状況下、その献身が褒め讃えられれば讃えられるほど一層あらわになったことを指摘しつつ、偏見と差別がうまく昇華していく道筋を願った講演であった。最後に占部まり宇沢国際学館代表は、「社会的共通資本としての医療 〜COVID―19から見えてきたもの」として、医療の本質はサービスではなく信任で専門家集団が高い知識を倫理観を持って管理すべきとした世界的経済学者(演者の御尊父故宇沢弘文先生)の理論を背景に、大学病院の意義を再評価し社会的共通資本としていかに管理運営していくかを考えさせられた講演であった。シンポジストと視聴してくださった皆様にも心からお礼を申し上げたい。
(精神医学講座担当教授 繁田雅弘記)

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