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東京慈恵医科大学同窓会

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2022年03月25日 卒業式祝辞
学校法人慈恵大学 理事長 栗原 敏


 本日、卒業式を迎えられた、医学科108名、看護学科59名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。また、卒業生のご家族の皆様には、ご子弟が卒業を迎えられお慶びも一入と思います。これまで卒業生の皆さんを物心共にご支援下さり、心から感謝申し上げます。
 医学科は6年間、看護学科は4年間の全課程を修了し、学窓を巣立つ卒業生の皆さんは、本学で学んだことを誇りに思い、これからそれぞれの道に進んで頂きたいと願います。皆さんが本学に入学した時には、思いもよらなかった新型コロナウイルス感染症の拡大によって、対面による授業を制限せざるを得なくなり、私は皆さんが単位を取得できなくなるのではないかと心配しました。しかし、教職員がWeb授業の資料を作成し、対面授業に勝るとも劣らない授業が可能となり、皆さんも努力した結果、医学科、看護学科ともに卒業に必要な単位を取得できたことは幸いでした。また、実習も感染予防に十分配慮して、不自由な環境の中でも行われたことは、学生諸君の努力に加えて、実習に関係した教職員やご家族のご協力の賜物と思います。このように、教育の根幹を揺るがす緊急事態に直面しても、関係した全ての方のご尽力によって、卒業式を迎えることが出来たことは、感慨深いものがあります。
 新型コロナウイルス感染症に見舞われ、大学機能が大きな影響を受けたことは、昨年、創立140周年を迎えた本学の歴史の中でも、特筆すべき事柄だと思います。これまでも、関東大震災、第2次世界大戦、学園紛争などで、大学は大きな影響を受けましたが、それぞれ困難を乗り越えてきました。関東大震災では、本学の建物の一棟を残して全壊しました。当時の金杉英五郎学長は、全教職員と学生に、“これは災難ではない、試練だ”と言って、奮起を呼びかけたのであります。教職員、同窓、学生諸君が立ち上がり、寄附を募り、建てられたのが旧大学本館でした。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大も、災難ではなく、我々に与えられた試練と受け止め、それぞれの立場で、なすべきことを一致協力して行い、乗り越えなくてはなりません。卒業生諸君は、これから社会に出て活躍するわけですが、長い人生行路には様々な試練が待ち受けています。どのような困難に直面しても、動じることなく皆さんの英知で乗り越えていかれることを祈念します。
 私は慈恵医大を卒業して50年になりますが、思い返すと、今日に至るまで、実に様々な困難に出会ってきました。しかし、その都度、友人、先輩、同僚、後輩に助けられてきました。順風満帆の人生行路は夢です。これまで、皆さんは、学生として守られてきましたが、これからは、自分自身の頭でよく考え問題を解決して歩みを進めていかなくてはなりません。その時、皆さんがどれだけの判断力、教養を身につけているのかが問われます。また、良き相談相手がいることが肝要だと思います。“良い人生とは良い人との出会いだ”という教えがありますが、心を開いて語り合い、相談できる良き友人、先輩、同僚を大切にして欲しいと願います。そして、どんな困難に出会っても、“できないのではない、やろうとしないのだ、自らに求めれば釈然たり”と言われた、本学を大正10年に卒業された生理学の大先輩、西丸和義先生の言葉に励まされます。
 皆さんのこれからの人生では、様々な場面で誠意をもって臨むことが求められます。2002年、本学附属の旧青戸病院で医療事故が起こり、大学は社会から糾弾され、私は窮地に立たされました。どのような態度で社会に対して謝罪しなくてはならないか、日々、考えていました。ある方から“誠意をもって対応することに尽きるのではないか”と助言を頂きその一言で救われた思いがしました。その後、“百芸は一誠に如かず”という教えに出会いました。どんな権謀術数も誠実であることには及ばないということです。病を抱えて悩む多くの方に支援の手を差し伸べる医師や看護師には、誠実に患者さんに向き合うことが求められます。誠実な姿勢の重要性は、医療だけに限ったことではありません。教育や研究にも通じることです。“真を愛する心こそ大切だ”と言われた、本学の生理学教授であった生沼曹六先生の言葉は重いと思います。
 どうか、卒業生の皆さんは、このような立派な先輩がいた本学で学んだことに誇りを持ち、これらの教えを胸に抱いてこれからの人生を歩んで頂きたいとお願いします。
 現在、日本は高齢社会になり、地域医療の在り方が問題になっていますが、本学を卒業した多くの方が、日本の地域医療を支えています。その中で、地域医療に懸命に献身し、多くの患者さんから信頼されていた本学出身の医師が、今年の1月、理不尽に命を奪われるという事件が発生しました。私はこの事件を日々思い出し、心を痛めています。皆さんがこれから人生を歩む上で、それぞれの身を守ることも重要です。社会に出る皆さんが、どうか無事でいて欲しいと祈らずにはいられません。
 卒業生の皆さん、どうか強い気持ちをもってそれぞれが目指す道を歩み、皆さんの前途が拓けることを心から祈念して、お祝いの言葉といたします。

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