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東京慈恵医科大学同窓会

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2022年11月25日 第42回慈恵医大夏季セミナー
東京慈恵会医科大学附属病院医療連携フォーラム


呼吸器外科におけるロボット支援下手術
呼吸器外科診療部長 大塚 崇

【はじめに】
 本邦のロボット支援下手術は、2012年に前立腺悪性腫瘍手術で保険収載され、現在では消化器外科、肝・胆・膵外科、婦人科、呼吸器外科、耳鼻科の手術で保険適用となり広く行われるようになっている。現在はin-tuitive社のda Vi-nciが主に使用されている。術者はコンソールから3Dの精細な画像を見ながら、座って手術を行う(図1)。人間工学に基づいて設計されたコンソールに座りながらの手術であり従来の手術に比べて外科医が疲労しにくい環境であるといえる。一方、手術による傷の大きさや手術手順等には胸腔鏡や腹腔鏡と比べて大きな違いはない。外科医の手と連動するロボットアームは人間の指の3倍繊細な動きをするため、細かい作業が可能となっている。またシミュレーションソフトによるトレーニングが可能であることが胸腔鏡や腹腔鏡下手術に比してのトレーニング上の有利な点である。実際の臓器切除のプログラムがインストールされていて、縫合、結紮も含めた手術トレーニングが実際の臓器や血管を使用せずにできるため、安全でかつ特別な場所が不要で、今後は若手のトレーニングにも有用であると考えられる。

【呼吸器外科におけるロボット手術の現状】
 呼吸器外科の分野では、本邦においては2018年に肺癌に対する肺葉切除、縦隔腫瘍手術、2020年に肺癌に対する区域切除、重症筋無力症に対する胸腺摘出術の術式が保険適応となった。ロボット手術の術者となるには定められたトレーニングを受けて、certificateを得ることが必要である。慈恵医大においては2020年からダヴィンチXによるロボット支援下手術を行っており、症例も増加傾向にある。ロボット手術は狭い空間における剥離、吻合に適しており、縦隔腫瘍の手術では特に有用である。ロボット鉗子は人間の手ぶれを抑えるため、安定した剥離操作が可能になっている。助手はロボットアームの間から主に吸引や鉗子の交換を行う(図2)。

【ロボット支援下手術の課題】
 ロボット手術において重要なのは手術の質を保つということと、安全性が担保されていることである。ロボット手術では繊細な手術が可能である一方、緊急時の対応に通常の胸腔鏡手術よりも時間がかかるというデメリットもあるので、安全性な手術を施行することに際して、術者、助手には多くの経験が必要であると考えられる。慈恵医大呼吸器外科では現在まで症例数を積み重ね、定期的に緊急時のトレーニングを行っていて、安全な手術を行うことに力を入れている。

【ロボット手術の呼吸器外科における将来展望】
 慈恵医大において2022年よりダヴィンチXiが導入され、手術ロボットが手術室で2台稼働することになる。北米においては2018年時点で肺癌の手術の3分の1がロボット支援下で行われていて、現在もその割合は増加している。本邦においても北米同様に呼吸器外科手術のロボット支援下手術の割合が増加していくと考えられる。

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