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東京慈恵医科大学同窓会

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2023年01月25日 第42回慈恵医大夏季セミナー
東京慈恵会医科大学 附属病院医療連携フォーラム


ロボット支援下膵切除術の導入と今後の展望
肝胆膵外科診療医長 後町武志

【はじめに】
 ロボット支援下手術の開発は1980年代に米国で戦場における遠隔手術を目的に始められたが、その後民間で開発が継続され1999年に発売されたDa Vinciをきっかけに広く各領域に拡がった。ロボット支援下手術の長所としては3D画像と拡大視効果による詳細な臓器解剖や病変視認性の向上、多関節機能により腹腔内での動作制限減少による繊細で確実な剥離、結紮、縫合操作が挙げられる。短所としては、ロボット手術が基本的に術者が単独で行う手術を想定しているため、広い術野展開や頻繁な場面転換には不向きとされ、その有用性は術式により差がある。本邦では2012年の前立腺悪性腫瘍手術への保険適応以降、泌尿器科、婦人科領域をはじめ、呼吸器外科、消化管外科手術で保険適用となってきた。2020年にはロボット支援下膵体尾部切除術、膵頭十二指腸切除術が保険収載され、低侵襲手術の導入が遅れていた膵臓手術においてもロボット支援下手術が徐々に広まりつつある。

【当科におけるロボット手術の現状】
 当科では膵切除における低侵襲手術として2004年から高度先進医療として腹腔鏡下膵体尾部切除を導入した。本術式は一般的に膵臓を脾臓とともに後腹膜から授動後に切離するもので、本術式の保険収載以降は悪性腫瘍や進行した病変に対しても安全に適応を拡大してきた。また2021年からは、数少ない開腹手術で行われる消化器手術のひとつであった膵頭十二指腸切除術に対しても腹腔鏡補助下手術を開始した。膵頭十二指腸切除術では病変のある膵頭部のみでなく、胆管、胆嚢、十二指腸、一部の空腸の切除も必要あり、続いて膵消化管吻合など複数の吻合・再建が必要なため、我々は病変の切除は腹腔鏡を用い、その後の再建は上腹部の小開腹創から行う方法として導入し安全に施行してきた。その後、膵切除術にロボット支援下手術が保険適応となったことから、2021年からロボット支援下膵体尾部切除術を導入し、これまでに施行した14例ではロボット手術に関連する合併症は認めず、後町がロボット膵体尾部切除のプロクター(指導医)資格を取得し、現在は坂本太郎医師とともに手術件数を重ねている。また2022年11月からはロボット支援下膵頭十二指腸切除術も導入した。本術式では複雑で繊細な操作を得意とするロボットの特徴を最大限いかして膵消化管吻合を行うことができるため、切除を腹腔鏡、再建(胆管・膵-消化管吻合)をロボット支援下に行うことで過度な手術時間の延長なく患者負担を軽減する低侵襲手術が可能となる。

【肝胆膵外科における今後のロボット手術の展望】
 これまでのロボット支援下膵切除の経験からは、過去の報告と同様に出血量の減少や術後入院期間の短縮が得られており、安全性を確保した上で患者さんの負担軽減が可能と考えられる。また2022年11月には当院2台目となるダヴィンチXiが導入され、当院でのロボット手術枠が増加した。今後も同窓の先生方にご協力をいただき、さらに患者さんのメリットに貢献できるよう努力したい。また、本年4月を目途に肝切除へのロボット手術の導入についても池上徹教授、春木孝一郎医師を中心に準備を進めており、今後も肝胆膵病変に対するロボット手術の適応を評価した上で標準化を進める予定である。

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