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東京慈恵医科大学同窓会

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2023年04月25日 第42回慈恵医大夏季セミナー
東京慈恵会医科大学附属病院医療連携フォーラム


慈恵医大泌尿器科におけるロボット支援手術の現状
泌尿器科診療部長 木村高弘

 はじめに

 ロボット支援手術は2000年代初頭に米国で開発され、本邦においては2012年に前立腺癌に対する前立腺全摘術で保険収載された。その後2016年には腎癌に対する腎部分切除術が保険収載され、以降、泌尿器疾患のみならず外科、婦人科領域等にも適応を広げてきた。さらにこれではダビンチシステムの独占状態であったが、後発メーカーの新たなロボットシステムも承認され、まさに拡大の一途である。当院においては、大学病院としてはやや遅く、2019年にダビンチシステムが導入された。
 腹腔鏡手術は開腹手術に比べ、術創が小さく術後の回復が早いだけではなく、気腹により静脈出血が抑えられること、鏡視下拡大視野により詳細な映像を術者間で共有できることなど大きな利点がある。しかし縫合を伴うような難易度の高い手術では習得までに時間を要するため、それを克服するために登場したのがロボット支援手術である。ロボットシステムは腹腔鏡手術の利点を引き継ぎつつ、多関節アームにより術者の手の動きそのままの繊細な手術が可能である。

 当科におけるロボット支援手術の現状

 当科ではダビンチシステム導入以降、前立腺全摘術を400例以上、腎部分切除術を50例以上施行し、昨年膀胱全摘術も開始した。他大学より導入は遅れたが、これまで長年腹腔鏡手術の技量を研鑽してきたことで、安全かつ高いレベルで導入することが出来たと考えている。一方でロボット手術を導入して実感するのは、多関節アームによる細やかな動きにより、これまで腹腔鏡手術では到達し得なかった高いレベルの手術が可能となったこと、座位での手術により身体的負担が軽減したことである。実際に導入以降当科手術は急速にロボット支援手術に代わった。
 当院では外科、婦人科でもロボット支援手術を導入し、手術件数が増加した事を受け、昨年9月には2台目を導入し、その適応は広がっている。一方で、よく指摘されているようにコスト面の問題は存在し、機器の節約や効率的な運用などの工夫は継続的な課題である。また若手医師が腹腔鏡手術を習得する機会が減少するという問題も指摘されている。実際泌尿器領域においては、現状ではすべての医療機関にロボットシステムがあるわけではないため、腹腔鏡手術は今でも必須の技術である。この点に関して当科は、ロボットシステムを導入していない関連施設へのローテーションでバランスの良い手術手技の習得を目指している。

 泌尿器科におけるロボット支援手術の展望

 技術習得の速度が早いといわれるロボット支援手術であるが、実際に若手医師が一定の手術レベルまで到達する期間は、腹腔鏡手術と比べ明らかに早いと感じている。しかし、ロボットの力を借りたからといって、すぐに手術のエキスパートになるわけではない。高いレベルの手術に到達するために必要な正確な診断、適切な手術方針のプランニング、立体的な解剖の理解はロボットでは支援できない。まさにその点に関しては、当科がこれまで腹腔鏡手術に取り組んで習得してきた知識、経験、技術が今、ロボット手術で実を結んでいると感じている。今後は、より多くの診療科、術式に様々なロボットシステムが導入されていくことが予想される。各教育施設では幅広い術式に対応する医師の教育が求められていくものと考えている。
 最後になりましたが、当院におけるロボット手術導入とこれまでの運用を支援して頂いた、手術部スタッフ、麻酔科をはじめ関係各所の皆様には心より御礼申しあげます。

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