東京慈恵医科大学同窓会
最新情報2024年12月25日 書評 相澤好治著「北里柴三郎と高木兼寛―受け継がれるべき二人の“医”志―」
東京慈恵会医科大学学長 松藤千弥
本紙でも度々紹介されるように、このところ学祖高木兼寛先生の業績を取り上げた出版物や作品が増えている。脚気という難病にして国家の一大事を、独創的な研究によって征圧した功績だけでなく、当時の日本医学界の権威者を相手にしたいわゆる脚気論争の顛末が、歴史に学ぼうとする人々を惹き付けているのだ。そこでは、民と官、英国医学とドイツ医学、海軍と陸軍、実践と理論という対比が強調され、我々の頭の中では、敵役あるいは引き立て役として学祖と対を成すのは森林太郎だという構図が定着している。
相澤好治氏による「北里柴三郎と高木兼寛」は、東大出身かつドイツ学派でありながら官と対峙し、生涯にわたって保育蒼生(国民保健)の初心を貫徹した北里を、我らの学祖と並べて描くことで、新たな視点を持ち込んでいる。4歳違いの2人の人生を8つのステージに分けて章立てしているが、見事なほど対比できる道を歩んだことがわかる。異なる扉から医学の道に入り、互いに若くして異なる分野で世界的業績をあげた2人だが、衛生学の専門家である著者は、現在の予防医学の道筋を作った共通点を指摘する。そしてステージが進むにつれて、国民の健康と社会の発展を願い、後進の育成にかける2つの思いが重なり合っていく。
著者の卓越した構成力とテンポのよい記述によって、大変読みやすい。そして綿密な取材に加え、著者の高い学識に基づく豆知識や考察が随所に挿入され、学ぶところが大きい。
著者は2人の個人的な交流を示す証拠をずいぶん探したとのことだが、未だに直接やりとりした書簡などは見つかっていないという。しかし本書を読めば、2人が日本橋の南側のどこかの店で酒を酌み交わしていたと確信するに違いない。
【バイオコミュニケーションズ株式会社 定価:1、760円(本体1、600円+税)】